――――志正栄華流と呼ばれる武術流派がある。
ある一族が長く受け継ぎし武術。
現代に残るそれは――――
《剣術》 《抜刀術》 《二刀剣術》 《小太刀術》 《薙刀術》 《杖術》 《投擲術》 《体術》
――――により構成される、実戦を想定した武術体系だ。
“銃火器で武装した複数の敵との戦闘”まで想定されていたりと、それはかなりの物である。

――――とはいえ、
現在では武術が実際に実戦で用いられる事は稀であり。
現、志正栄華流内の若手では最強の使い手と呼ばれている来生耀司にしても、

普段は普通の高校生である。




しく、々しくえよ。



「――――なんですって? 叔父さん、もう一度、自分に理解可能な言語でお願いします」
 その昼前にかかって来た電話の内容に来生耀司(きすぎ ようじ)は困惑し聞き返した。
 実の所、耀司は叔父が電話をかけてきた時点で嫌な予感はしていた。――――この場合、叔父自身には問題は無い。どちらかと言うと、耀司にしてもこの叔父は人として好きな部類に入るだろう。
 この場合問題となるのは、叔父の家である。その家は来生家から見ると“本家”とか“宗家”とか呼ばれる類の家である。
 耀司の父はその本家から勘当された身である。――――当時の話を聞く限り、耀司には父が自ら勘当されるように仕向けた印象も受ける。
 そんな、本来なら“縁の無い家”から連絡があれば、誰だって嫌な予感くらいはする。それは耀司も例外ではなかった。
 電話を受けた際、一度は即座に通話を切るという、過剰反応を示したくらいだ。
 何せ両親の死後、本家の長老方は色々と無茶苦茶な事を言ってくるのである。……叔父を通して。
 さて、今回は何を言って来たかというと――――
『あー……、だからね。『お見合い』しない?』
 ――――と、言う事である。
「…………気のせいか、『見合い』と聞こえましたが?」
『……そう言ったよ?』
「謹んで、お断りいたします」
 通話終了。耀司は即答と同時に受話器を戻した。
 が、即座に鳴りはじめる電話。耀司は苦い顔で数秒その電話を眺めると、受話器を上げた。
「もしもし」
『頼むから、いきなり切らないで』
「どちらさまでしょう?」
『……分かってて言わないでくれる?』
「……とうとうウチにも“オレオレ詐欺”の波が――――」
『違うから!』
「なんと言われても、お金は振り込みませんよ」
『だから違うから!』
「え? 事故を起こした? そんなの知りませんよ」
『なんか、勝手に話が進んでる!?』
「……はぁ、叔父さん、本気ですか?」
 耀司は一つ溜息を吐くと、仕方なく叔父と会話する事にした。
『…………まぁ良いけど。長老達は本気みたいだよ』
「まだ十五ですよ? 俺」
『関係ないだろ、あの人たちには』
「……ま、そうですね」
 それで、納得できてしまう所が嫌だな。と耀司は思う。
『それで、お見合いの話だけど』
「それは、お断りします」
『やっぱり?』
「はい」
『……じゃ、こっちで適当に断っとくよ』
 はじめから、そうするつもりだったのだろう。それほど考える事も無く返答する叔父。
「お願いします」
『ん、じゃ、絣(かすり)ちゃんに宜しく言っといて』
「はい、では」
 今度こそ、通話終了。
「よりにもよって『見合い』かよ」
 受話器を戻しつつ呟く耀司。
 耀司は今十五歳。今年十六歳になる高校生だ(現在春休みなので、正確には休み明けから高校生)、はっきり言って今の時代では早すぎる。何せ法的にも結婚できないのだ。
 『俺はどこの“お坊ちゃま”だ?』と思わずにはいられない。別に金持ちだからといって、若くから見合いをするというわけでは無いが、そこはイメージである。
「兄さん? 電話終わったんなら昼食にしましょ? もう、準備できてるから」
 電話機の前で黙考していた耀司にかけられる声。来生絣(きすぎ かすり)、耀司の妹だ。
「ん、ああ、悪い。今行く」


「お見合い?」
「そう」
 その肯定の言葉に対する絣の言葉は、耀司にとって意外なものだった。
「受ければ良かったのに」
「……何故に」
「まぁ、お見合いがどうとかは置いとくとして、もうちょっと浮いた話とかがあっても良いと思う。兄さんは」
「作ろうと思って作るようなもんでもないだろ、恋人なんて」
「そうかな? あぁ、早く優しくて綺麗でスタイルも良くて頭も良いお義姉さんが欲しい……」
「何を贅沢な」
「もちろん、兄さんが選んだ人なら問題なく仲良くできる自信あるから、さっきの条件に当てはまらないからといって文句は言わないよ? なんなら内藤姉妹のどっちかでも文句は言わないよ? まぁ、香弥(かや)ちゃんがお義姉さんってのはちょっと複雑だけど、年下だし」
「何故、お前の親友やその妹に手を出さなきゃ行けないんだ?」
 内藤加奈子(ないとう かなこ)は絣の親友で、香弥はその妹だ。
「そう? 二つや三つくらい学年が違うのなんか、気にしなくて良いと思うけど……。 加奈子や香弥ちゃんなら私もサポートできるし」
「いや、年齢とかじゃなく、いや、それも有るけど、ってそもそも自分の恋人作るのに妹にサポートして貰おうとは思わ――――あぁ、もう! どこに突っ込んで良いのやら」
 耀司は頭を振って、少しばかり気持ちを落ち着けて再度口を開く。
「とにかく! 少なくとも妹の友人に手を出す気は無い!」
 何せ、相手は中学二年と中学一年である。色々問題ありだ。
「残念、折角兄さんに惚れるようにゆっくりと洗脳してきたのに」
「何してくれてんだ!? お前!」
「あら、兄さんが気にする必要ありませんよ?」
 今日はいつに無く悪乗りしている。と耀司が内心思っていると、更に妹の言葉が耳に入ってくる。
「でも、兄さんって見た目はそこそこ良い感じですから、その気になれば恋人の二桁くらいは」
「一人で十分だろ……」
 疲れたように呟く兄を無視して妹は更に続ける。
「やっぱり、その真面目な性格がいけないのかな?」
「すごいな、『真面目が駄目』なんて言われたのは初めてだ」
「……だって、兄さんナンパなんてできないでしょ?」
「初対面の女性にいきなり話しかけるのは失礼だろ?」
「ほら、駄目じゃん」
「……意味が分からん」
「兄さんはもう少し押しを強くしないと、……ナンパしろとまでは言わないけど、女の子相手にどうも遠慮しすぎな所があるから、それはどうにかした方が良いと思うよ? 別に女の子に興味が無いって訳じゃないでしょ?」
「む、確かに興味は有るが……」
「だったら、もっと女の子に対して積極的にならないとっ!」
「い、いや、そんな力入れる場面か?」
「……と、言うことでお見合いの話、引き受けましょう」
「…………はぁ?」
 耀司は当事者でありながら話についていけていなかったが、そんな兄のことなど放って置いて絣は続ける。
「うんうん、やっぱりまずは行動。タイミングよくお見合い話がやって来たのも、ある意味天啓。叔父さんには私から話を通しておくから」
「…………」
 そして、昼食中にも係わらず電話機に向かう絣。耀司の頭が再起動したときには、既に後の祭りであった。
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