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兄〜そよ風の贈り物
筆者:異羽希


大好きだった兄がいた。

そして大好きだった兄はもういない。

 私より、五つ年上の兄は都麦学園に通う高校二年生だった。

 両親は多忙で、小さい頃から、家では兄と二人という事が多かった。食事にしても、母や父が作る料理よりも兄の料理を食べることの方が多いくらいだ。付き合いの長さと愛情は比例するのだろうか。
 特別格好いいという事もなく、特別頭がいいという事もなく、特別運動が出来るという事もなく、特技は料理というごくごく平凡な、少し変わった兄のことは家族の誰よりも私の方が知っていた。

 だから、兄が亡くなったと聞いたとき、誰よりも悲しんだのはきっと私なんだろう。





 その日は、私が風邪をひいて学校を休んだ翌日だった。もう熱も下がったから大丈夫だと言う私と、念のためもう一日休めという兄。

 結局、もう一日休めば兄が何でも一つだけいう事を聞く。と言ったのをきっかけに私はもう一日だけ学校を休むことにした。
 玄関では兄が私の頭をくしゃっと撫でながら、行ってきますを言う。この私が家に残り、兄が家を出るときに頭を撫でるというのは小さい頃からの習慣だったりする。私は兄の柔らかい手に撫でられるのは実は結構好きだったりしたので、兄が買い物に行くときにわざと、一人家に残ったりすることもあった。

 兄を見送ったあとは、部屋で本を読んだり、テレビを見たり、昼には、兄が作ってくれたおじやを温めて食べたり、おやつは病人らしく桃カンだったりと、結構一日を満喫していた。
 何より、兄が帰ってきたら、何でも一つだけいう事を聞くという約束がある。私は兄が帰ってきたら、何をさせようかと色々考えていた。


 ……そんなとき、玄関が開いたのが分かった。

 兄かもしれないと思って、玄関へと向かってから気付いた。いつもは兄が絶対に言うはずの、ただいまの言葉がなかったのだ。しかしもう遅い。これが空き巣だろうが何だろうが玄関を開けられていることに違いはないのだから。私は出来るだけ気付かれないようにリビングから玄関を覗く。

 見えたのは母の姿だった。私は安堵した気持ちで玄関へと向かい母へおかえりと言葉をかける。こんな時間に仕事が終わったのは珍しいがそういう日もあるのだろうと勝手に納得した。

 母は玄関から一歩も動かずに私を見ていた。私も母の顔を見つめなおす。何時もとどこか違う悲痛な表情をしているのに私は気付いてしまった。

『あのね、落ち着いて聞いてほしいの』

 母は悲痛な表情を浮かべたままその場へ屈み、私へと言葉をかける。そういえば、今日見た昼ドラにもこんな言葉があったなどこか他所事のように考えていた私の思考は、母の次の言葉でかき消された。







『お兄ちゃんがね……』






 ナニヲイッテルノ?



 私の思考はそこで完全に停止した。



『何いってるの、お母さん、そんな冗談笑えないよ』


 冗談じゃない。母の表情がそれを物語っていた。しかし、私は認めたくなかった。


『よく聞いて……』

『やめてっ!』


 私は、そう叫ぶと一目散に兄の部屋へと駆け込んだ。

 兄の匂いがするこの部屋へ入ると、さっきの言葉は余計に嘘のように感じられる。ここには兄が好きな本がある。兄の好きなゲームがある。兄が密かに憧れているという女子生徒の写真がこっそりと引き出しの奥に閉まってある。この部屋に兄が戻ってこないはずがあるもんか。戻ってきたら、私を驚かせた罰として一つだけじゃない、二つも三つもいう事を聞かせてやろうと信じて、私はそのまま兄のベッドで眠りに落ちた。

 その日からは学校にも行かずに兄の部屋へと引きこもっていた。もちろん最低限の食事や風呂やトイレの時には部屋からも出るが、それでも、ほとんどは兄の部屋にいることがほとんどだった。時折、部屋の外から交通事故とかひき逃げいう単語が聞こえたりしていたが、そんな言葉は私の頭に残らなかったし残したくもなかった。





 数日が経ち、私は部屋へ入ってきた母に無理矢理黒い服を着せられ、どこかへと車で連れて行かれた。車で着いた先は墓場だった。母は動く気力のない私をひきずるように墓石の前へと連れて行く。

 私と同じように黒い服に身を包んだ人たちは入れ替わりのように墓場から出て行った。私が連れて行かれた墓場で最後に手を合わせていた二人も私と母の姿を確認すると場所を空けるようにその場を離れた。

 私は、この墓石を見るのがイヤだった。お盆の季節には何度か訪れたことのあるこの場所には、私の家の姓が刻まれている。それだけなら構わない。ただ、今はもう見たくないのだ。見てしまったら認めてしまうようでイヤなのだ。

 だけど、現実は無常なものである。私は見てしまったのだ。


 ……墓石に刻まれた、兄の名前を。


 私はその場でポロポロと涙を流し、そして泣き崩れた。見てしまった。認めたくないが認めてしまった。まだ周囲には少しの人だかりがあるが、それでも気にせずに泣いた。

「一人にしてやろう」

 父が母にそう言って、二人は私から離れていった。

 周囲からも向けられていた好奇の視線や、悲哀の視線がなくなっていった。



 私の目からは完全に周りが見えないほどに涙があふれ出ていた。その為だろうか、兄がそこにいるような気がして、聞こえるわけはない、聞けるわけがない。そうは思いながらも言葉を紡いでいた。

「……ヒックッ、何でもいう事聞くって言ったのに……ウゥッ……だったら、もう一度頭を撫でてよ、最後に行ってきますって言ってよぉ」

 ジャリと近くを誰かが歩いたような音がした。次いでそよ風が私の体を包み込んだ。

 そのとき、私の頭に何かが触れたのに気付いた。

「えっ」

 顔を上げてみる、私に手が届く範囲に人の姿はない。だけど、クシャクシャと私の髪がみだれていく。ちょっと乱暴なこの頭の撫で方は、私が聞き分けのないことを言った時にやる兄独自の撫で方だ。

 何故か、おそるおそる手を前へと突き出す。何もないところなのに、指先にやわらかい感触があった。私の肩に何かが触れる、私の体はそのまま何もない空間へと優しく引かれていく。

 ぽすんと、私を包み込むそれは、小さい頃、私が怖いテレビ番組を見て眠れないときに、一緒の布団で寝てくれた兄の胸の感触と酷似していた。いや、これは兄だ。兄そのものなのだ。

 兄はそのまま、いつもの「行ってきます」の時と同じように私の頭をやさしく撫でる。


 だから、私はこう言った。いつもと同じように……


「お兄ちゃん、行ってらっしゃい」

 私の頭から兄の手の感触が消える。


 ジャリと誰かが歩いた音が聞こえると同時にサァッと心地よい風がふいた。


 一呼吸置いて真っ直ぐに手を伸ばしたがそこには兄の感触はなく周囲を見渡しても学生服に身を包んだ二人が墓場から出て行く姿しか見えなかった。

サァッともう一度心地よい風が私の包み込む。きっとこれは、そよ風からの贈り物。泣いていた私の願いを、きっと、そよ風が兄のもとへと運んでくれたのだ。兄も最後の約束を守ってくれた。私は空を見上げる。久しぶりの空には目に溜まった涙を通して虹が浮かんでいた。綺麗だなぁと思う。兄の部屋に引きこもっているばかりでは絶対に見れない光景だ。私も動き出さなければいけないのだろう。

「バイバイ、お兄ちゃん」

 私は、そう呟いて、墓石に手を合わせると入り口で待っている、父と母のもとへ駆け出した。少し驚いている父と母の姿が滑稽に見えた。まずは、ごめんなさいから始めよう。












「ありがとうな、蛍」

「別にいいよ。陽慈の友達の墓参りにきたぐらいだろ。僕がしたのは」

 駆け抜けていく少女の後ろ姿を見ながら僕と陽慈は手を振った。

 少女の後ろをフワフワとついていく彼がこちらに向かって「ありがとう」と手を振りながら叫んでいた。

「いい守護霊になれそうだと思わないか」

 陽慈がそんなことを聞いてくる。

「まぁ、私ほどじゃないけど、絶対にいい守護霊になると思うよ〜。ねぇ〜ケイ」

「ユウのことは置いといて、そうなったらいいなとは思うけどね」

「むぅ〜、置いといてとは何だ〜」

「うわ、暑い、くっつくな。ただでさえ暑いのに、学生服でびっしり着こんでるから、汗ダラダラなんだぞ」

「てやんでぃ、こちとら江戸っ子でぃ。暑さなんてお手のものよ」

 そう言って、ユウは僕にひとしきり引っ付いた後で。

「う〜ん、暑いよ〜。やっぱり夏はスイカだよね〜」

 僕から5mばかり離れていった。理不尽だ、死にてぇ。

 ただでさえ、最近は暑さで寝不足だったりしてるのに、これ以上暑いのはゴメンだ。北の人間は寒さに強くても暑さに弱いんだ。そんなことを考えていると。

 サァッと心地よい風が吹き抜けていった。どこかで風鈴の音が響いている。

 ……なぜかは分からないけど、はっきりとも言えないけれど、最近は暑さで寝不足だった僕だけど何となく今日は気持ちよく眠れそうな予感がしていた。



あとがき〜

 タイトル見てください。分かる人にはわかります。というか分からなければ葵先生のファン失格です。分かる人もファン失格です。ごめんなさい。調子乗りすぎました。私がファンをどうこう言える立場じゃありません。こんなんじゃ私はファン失格です。
さて、こんな私ですが。とりあえずマテゴの二次創作は初めて書きます。というか今日のブログを見て一瞬でネタが浮かびました。最近、葵先生の書いている掌編、これと文章量はほぼ同じですが、あちらは30分、こっちは2時間半という素晴らしい差が出来ております。やっぱり早いよ…『すごいよアオイさん』セクシーコマンドーもびっくりです。
さて、今作品ですが兄シリーズ第一弾と称しておきます「そよ風の贈り物」、ええ、他にもネタはあります。
三部構成です。続編としてもちろん「最後の審判」「エピローグ」も書く予定です。予定は未定ですが。とりあえず今日という事はありません。
次の機会があれば見てくれると幸いです。それでは〜。

公開:2006/06/16

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