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兄〜最後の審判
筆者:異羽希


 それは別に何てことのない一日だった。

 風邪をひいて前日までは学校を休んでいた妹もすっかり元気になっていた。といっても念のため、もう一日学校は休ませておいた。何はともあれ前日のように急いで家まで帰る必要もない一日だった。まぁ、ずっと家に一人で留守番させてたんだから早く帰るつもりだったけど。

 いつものように帰り道にスーパーに買い物に行った。夕食のおかずを買って、ついでに妹の好きな白桃ゼリーも買って、後は家に帰るだけだったんだ。

 そう、いつも通りの一日だったんだけど……そんな日常は呆気なく崩れ去るという事を、その日、身をもって教えられたんだ。

 僕がスーパーで買い物を終えて外に出たところで、スーパーの前の大きな交差点の信号が赤から青に変わった。ぞろぞろと大勢の人達が横断歩道を渡っていった。僕も信号を渡ろうと横断歩道に足を踏み入れ、五歩くらい歩いた頃だった。突然、女性の悲鳴が聴こえたと思うと、僕は空を飛ぶという経験を生まれて初めて味わった。もっとも、『飛ぶ』というよりは『弾かれる』って言ったほうが的確な表現なんだろうけど。

 僕が次に気がついた時には、僕は空を飛んでいる最中だった。と言うか……僕の生まれて初めての体験は、一瞬の間に死んで初めての体験に変わっていたりした。

 下を見てみると、そこにあったのは見るも無残な死体だった。うん、何ていうか自分が死んだということを理解させられた感じだったね。何せ、その死体のそばには、僕がついさっき買った夕食のおかずとかが散らばってたし、極めつけにはその死体の横に落ちている鞄には、僕の去年の誕生日に妹がプレゼントしてくれたビーズで作ったキーホルダーがきちんとついていたのだから。

 多分これは第六感ってやつだろう。死んで直ぐに思うことじゃないかもしれないけど、何となく、僕を跳ね飛ばした車の運転手の顔を見たくなったんだ。僕は体をフワフワと動かし、僕を跳ね飛ばした跡がくっきりと残っている赤色のスポーツカーの運転席をのぞいて見ると……うわぁ最悪。

 もう、これ以上ないって言うくらい最悪な気分になったね。僕はどっちかっていうと真面目なタイプだし、そうなると当然、嫌いなタイプっていうのは不真面目なタイプになるんだけど、僕を跳ね飛ばした奴の外見がモロに大嫌いなタイプだったわけ。端的にいうと、髪を染めて伸ばして、耳や唇に無駄に二つも三つもピアス穴あけてて、ちゃちぃタトゥーを入れてるような、真面目から程遠いところにあるような不良……違うな、チンピラっていうのかな。
まぁ、これが美人のお姉さんや、可憐な女の子だったとしても僕が死んだという事実には変わりはないんだけど、嫌いなタイプに殺されるって言うのはかなり最悪な気分だよね実際。

 で、更に最悪だったのが、この野郎。その場から逃げ出しやがったわけで。まぁ、幸いなことに車のナンバーも相手の顔も覚えていたんだけど……残念としか言いようが無い。僕は既に死んでるわけだから、誰かに伝えようと思っても伝えることが出来なかったし、何とか、目撃情報から車の車種までは分かったみたいだけど、ナンバーを覚えてる人はいなかったみたいだった。まぁ、仕方ないだろう。あの悲鳴をあげたっぽい女の子なんて横断歩道上で腰抜かしてたし、冷静な人なんてほとんどいなかった。

 数日たった頃に、これまた何となく学校にフラフラ飛んでいった時に星川先輩が僕の姿を見えるっていうのがわかったけど、ちょっと遅かった。結構時間が経過してから、しかも僕の知り合いからの目撃情報なんて信用されるか分からないから、星川先輩に警察に行ってもらうってことはしなかった。
 でもね、僕だけはこの第六感ってやつのおかげで、相手の顔も車のナンバーもはっきりと覚えてるわけで、どうせなら車に轢かれる前に第六感が働いてくれたらもっとよかったんだけど、でもまぁ、今回はそんな事は置いといて……











「蛍君、僕に協力してくれ」

「はぁ?」

 突然だけど僕は、学校帰りの蛍君を引っ張っている最中だったりする。別に理由もなくこんな事をしているわけじゃない。そもそも僕は基本的に妹の守護霊として、妹を守っていなければならないから、妹から離れているという事はあまりいい事とは言えない。

 でも、今回だけは、今この機会を逃したら僕はきっと後悔するから。

「ちょっと、せめて理由を話し、あがっ」

 どうやら、走りながら喋ってるから舌を噛んでしまったようだ。ちょっと罪悪感を感じないでもないけど、どうしても急ぐ必要があったから、簡単に走りながら説明をすることにした。

「上記参照してっ!」

「ええっ、あれってモノローグじゃないか。そんな無理矢理な。っていうか、それでも説明足りないし」

「なるほどね。私には分かったよ」

「幽霊同士で勝手に分かり合うなよっ!」

 蛍君が僕とユウさんに向かって叫んでいるが、気にしてはいられない。そう、この辺りの筈だ……





「……見つけた」

 僕が息を切らしながらも、ある一点だけを凝視し、一言だけ呟いた。

「もしかして、あれが……」

 ユウさんが僕に尋ねてくる、だから僕は答えた。

「そう、あれが僕を殺した男だ」

 僕が答えると、蛍君とユウさんもその一点を見つめ驚愕した表情を浮かべた。僕を殺したことなんて少しも気にしていないかのように、その男は店の宣伝をしている女の子をナンパしている。逃げたことに対してもかなり腹の立っていた僕だけど、罪悪感すらも感じていないような男の様子を見ていると、またもや怒りが湧き上がってきた。そして僕が蛍君を連れてきた理由は……

 僕が蛍君に、頼みごとをしようとした時、ユウさんが男の方向を指差し呟いた。

「ねぇ、ケイ。あれってもしかして……」

「うん、あれはアヤだ」

「え、知り合いだったの」

 そう、あそこでナンパされている女の子は僕のクラスメイトの篠倉綾さんだ。蛍君たちはどうやら篠倉さんと顔見知りだったようだ。っていうか下の名前で呼んでるよ。僕ちょっとショックかも。
ともあれ、僕が言いたいのはそういう事、僕は篠倉さんのことが密かに好きだったりする。彼女の写真をこっそりと部屋の机の引き出しの中に入れているのを妹に見つかったこともあったけど、あ、そういえば、あの写真どうなったんだろう。僕が死んだ時に遺品整理とかされて親に見つかっちゃったのかと思うと少し気恥ずかしい。これなら普通にエロ本とか見つかったほうがマシな気がする。っと脱線してしまったけど、僕が蛍君をつれてきたのは、篠倉さんからあの糞野郎を引き離すためだったりする。もちろん蛍君もユウさんもこの意見には快く賛同してくれた。ならばやることは決まっている。

 だから、僕は……いや僕たちはこっそりと打ち合わせをして、彼女を助けるために動き出した。














 僕は打ち合わせを済ませると、男の背後へと回りこんだ。篠倉さんの本当に迷惑している表情が痛々しいが今の僕には何もすることが出来ない。そう……今の僕にはだけど。

「なぁ、いいじゃねぇか。バイトなんて放っといて俺と遊ぼうぜ。そっちの方が絶対に楽しいしよ」

 あまりに自分勝手な言い分に腹が煮えくり返りそうになる。僕は蛍君に視線を向ける。蛍君も僕に視線を向けた。そして僕たちは頷きあうと作戦を開始した。





「アヤ!」

「式見君っ!?」

 蛍君が篠倉さんのもとへ走っていく。篠倉さんは驚いた様子だったが、直ぐに安堵の表情を浮かべた。ああ、蛍君羨ましい役回りだなぁ。対して男の方は明らかに不機嫌な表情を浮かべている。それほど自分のしていることを邪魔されるのが嫌だというなら、篠倉さんが仕事を邪魔されているのに対してどう思っているかすらも考えていなかったのだろうか。それとも百も承知でナンパを続けていたのかもしれない。どちらにしても僕が腹を立てることに変わりはないが。

「っだよ。てめぇはよぉっ!」

 男はいきなり、蛍君の胸倉を掴み上げる。蛍君はそれでも男に対し言葉をかける。

「彼女が嫌がってることくらい、わかるでしょう。もうどこかへ行ってください」

「何でてめぇに、そんなこと言われなきゃなんねぇんだよ。そもそも何?嫌がってる人をナンパしちゃいけないって法律でもあるわけか?」

 蛍君からの忠告も聞かず男は、更に蛍君を掴み上げる。なるほどね。嫌がってるのは百も承知だったってわけね。

 決定。話し合う余地はなし。というか話し合う必要を僕はもう感じなかった。別に僕は喧嘩が強いわけでも力が人より強いわけでもない。でも、姿が見えない。それだけは揺るぎようのない事実なのだ。だから、僕は男に対してこっそりと攻撃を開始する。まぁ、卑怯といえば卑怯だけど、こんなチンピラを相手に面と向かって喧嘩なんてしたくないのだ。

「あっ!ぐぅぅっ」

 男が蛍君の胸倉をつかんでいた手を離し、その手で自分の足を押さえた。そう、力が強くなくても、どんな相手でも急所ってものは存在する。そこを狙えば問題はない。今回僕が攻撃した場所、皆も経験あるんじゃないだろうか、太ももに対しての膝蹴りってやつを。

「てめぇ、舐めてんのかコラァッ」

 痛みでうずくまってるくせに彼は結構強気だった。まぁ、こんな外見してる奴らってのは、外見で相手の強さとかを判断してるのだろう。お世辞にも蛍君は喧嘩とか強そうじゃない容姿だし。まぁ、君の相手は僕だから怒鳴る相手を間違えてるんだけど。

「式見君……」

 篠倉さんが不安そうな表情で蛍君を見つめる。蛍君は、そんな篠倉さんに対し「大丈夫だから」と一言声をかけると、その位置から一歩も動かずに、右手を男に向かって突き出した。

「はぁ、何やってのおまっっがぁぁ」

 明らかに人を馬鹿にしていた男の表情が醜く歪み、首から上が後ろへとふっ飛んだ。式見君が右手を突き出した直後、僕が全力で顔面を殴ったのだ。男も困惑しているが、篠倉さんもかなり困惑した表情を浮かべている。ゴメンね蛍君、篠倉さんに対する言い訳は任します。

 続いて蛍君が腕を下から上へ突き上げる。足を軽く横へと流す。僕はそれに倣って、男の顎に拳を叩きこみ、腹部に対して蹴りをいれる。そんなのを何度か続けた。別に蛍君が直接男を殴ってるわけでもない。あの男の言い分じゃないが、これは法的には何ら問題のない行動だ。まぁ、周りから見たら蛍君が手や足を振り回している不審者にしか見えないけどやられてる本人からしたら、なかなかの恐怖だろう。

「ひぃっ、も、もう勘弁してくれよ」

 男はついに泣きを入れた。地べたに手足をつけたかなり情けない格好だったりする。計画では、そろそろ篠倉さんを連れてここからおさらばする頃……の筈なんだけど。

「ごめん、アヤ。ちょっと離れていてくれないかな」

 蛍君が一瞬、本当に一瞬だけど、とても冷たい目をしたのを僕は見逃さなかった。篠倉さんも何らかの雰囲気を感じ取ったのだろう。戸惑いながらも蛍君の言葉に頷き、その場から離れていく。

 そして、蛍君は男の前に屈みこむと、もう一度あの冷たい表情を浮かべ一言、たった一言だけを呟いた。

「人を殺した罪から、逃れられると思うなよ」

 そう言うと、蛍君は立ち上がりスタスタとその場を離れていった。僕は分かった。あの一瞬の冷たい表情は男に対しての怒り。僕を思ってくれた蛍君の怒りが表情に現れていたのだと。つい最近、それも死んだ後に知り合った僕の死に彼は怒ってくれたのだと思うと、嬉しくて、つい頬がにやけていた。

 ふと、後ろを見てみる。男は青白い表情でガタガタと体を震わせていた。










 あれから直ぐに、男は近くの警察署に自首に行ったようだった。父も母もそのことでバタバタしていたがそれでも良い事もあった。
 損害賠償というやつで結構な大金が家に入ってきたことだ。今までは両親が共働きだったけど、金銭面に余裕が出来たので母は仕事をやめて家にいることが多くなった。
 最近では、妹が一人で家にいることが多くて心配だったけど、これからは母が一緒にいてくれる。両親も妹も僕の死を完全に吹っ切ったわけじゃないみたいだけど、それでも以前のように、いや、母がずっと家にいる分、家族全体として以前以上に家族仲が良くなったようにも思えた。



忘れられたわけじゃない。そうは分かってるのだけど、僕がいなくても、世界は回っている。それを実感させられて少し寂しかったりした。









『え、突然電話なんてしてきてどうしたの式見君』

『うん、残念だったね』

『あ、そうだよ。クラスメイトだったよ。』

『人柄?う〜ん、何て言うかな〜。何となくだけど結構式見君に似てるところあったかも』

『え、告白してきたらどうしてたって。何か式見君と似てるって言った後にその質問はちょっと困っちゃうけど……』

『うん、やっぱり断ってたと思う。でも、でもね。きっと、いい友達にはなれたと思うんだ』

『あ、何か嬉しそうだね。どうしたの本当に』

『うん、凄いんだよ。家庭科の授業なんて女子顔負けで……』

『あ、もうこんな時間だね。よく分からなかったけど、また電話してね。それじゃ、おやすみ』










「それじゃ、おやすみ。お兄ちゃん」

 私は、自分の勉強机の引き出しをそっとあけて置いてある写真におやすみを言った。

 私と兄のツーショットの写真。その横には、兄が密かに憧れていたという女子生徒の写真を一緒に置いてあったりする。

「両手に花だぞ、この贅沢者め〜」

 私は、そう兄に喋りかけて、今日もまた眠りにつくことにした。まだまだ吹っ切れることは出来なさそうだ。



あとがき〜

さて、第二話『最後の審判』完成です。途中でユウの存在を忘れていたのは内緒です。いや、だってユウ絡みづらいです。あの場面。
さて、話は変わりますが今回の話のコンセプトは、やっぱり世の中銭だよねってお話。嘘です。そんなドロドロしたお話は私の私生活だけで十分です。いや、実際必要だとは思いますけどお金。それこそ悪人と呼ばれるような輩からはこれでもかと言うくらい踏んだくる位が丁度いいと思うんですが、何だかんだで悪人が儲けるというこの世界。理不尽な気がします。
まぁ、なにはともあれ、次回「兄〜それから」で最終話となります。結構プロットは完成気味なので次回更新は早いかも。とかいうと、えてして遅くなるのが私だったり(汗)
とりあえず、今作品楽しんでいただけたら幸いです。次回も楽しんでいただければ更に幸いです。それでは〜

公開:2006/06/21

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