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清浄な未来
著者:any熊

 毎朝迷惑な時間に起こしてくれる幽霊が居なくなってから、僕は朝一人で目を覚ますという能力をやっと取り戻せるようになった。喜ぶべき事なのかもしれないけれども何故か素直に喜べない。
 瞼を開けると見慣れた天井が目に付く。うん、なんだかんだ言ってもやっぱり一人で起きれる朝はいい。自分の好きな時間に起きれるだなんて最高かもしれない。ただ、まぁ、ぼんやりと何かが欠けた気がするだけだ。別に寂しいとかそう言ったわけではない。これが僕の選んだ道だ。後悔なんて勿論していない。ただ、少しだけ選ばなかった別の道を想像してみただけだ。
 布団の外に出るには寒い季節になった。羽毛布団大統領の支持率がうなぎ上りなのは間違い無い。僕もずっとこうしていたいが、ただ、まぁ、朝起きなければならない時間というものが残念ながらあるわけで……といってももう昼過ぎになっていたりするけども。
 十分に名残を惜しんだ後で僕は布団を剥ぎ身体を起こした。
 が、腰の辺りに重い感触。
 布団に向かって語り掛ける。
「……耀、いい加減僕の布団にもぐりこむのはやめろ」
 布団の中を見ると、日中はポニーテールにしている髪を惜しげもなく乱れさせている、パジャマ姿の快活そうな、所謂美少女という奴が僕の腰に巻きついていた。それだけ聞くと凄く嫌味な男なようだがそうではない。弾じて、この布団の中で男女の営みが行なわれていない。
「……センパイ、おはようございます……ふぁあ」
 欠伸をしながら眠たそうに耀は僕を見た。
「おはようじゃない、何で毎朝毎朝僕の布団の中に潜りこむんだよ?」
 そうなのである。耀は耀で布団があるはずなのに、彼女は僕と生活を始めてからずっと僕の布団の中に潜こんでいる。そりゃあ、抱きつかれたら触れる事となる肢体に全くどきまぎしないわけじゃない。というか、最初は自分を落ち着けるのに必死だった気がする。そりゃそうだろう。そんな距離に近づいた異性は実の妹か幽霊だったので、生身で親族じゃない異性は耀が初めてだったのだ。意識するなというのが無理な話だ。
 耀は少し寝ぼけた顔をしている。まぁ、美少女はそれでも見苦しくならないのが凄いとでも言うべきなのか。
「それはほらぁ、アレですよ。私はもはやセンパイなくしては生きていられない、いやらしい身体になってしまったから……」
「いやらしいとかいらないからっ! 誤解受けるような言い方するなよっ!」
「冷え切った私の体は今日もセンパイを激しく求めて居たのに……、ニャー君も『センパイは鬼畜だ』と断言しております」
 そういう耀の右手に犬のぬいぐるみはもういない。代わりにそこには犬の顔が縫い付けられたミサンガがある。

 僕が耀と暮らすようになって、
 彼女は犬のぬいぐるみを手放した。

 代わりにこうしてニャー君(Jr)が彼女の右手に収まっているのはファッションセンスというべきなのか凄く悩む。
「断言するなっ! この場面を誰かが盗聴していたら僕がとっても悪い奴に聞こえるじゃないか!」
「盗聴機だったら紗鳥センパイが仕掛けたのしかありませんよ、ていうか、そんな事はどうでもいいとして朝ご飯にしましょうよ」
 耀は右手で欠伸を隠しながら聞き捨てならない事を言った。というか本当に聞き捨てならない。
「待て! 先輩がいつ仕掛けた!? 基本的にお前と僕といっしょに行動しているはずなのになんで僕が知らないで耀が知ってる事があるんだよ!?」
「センパイ、私はオンナノコですよ。だったら当然じゃないですか?」
「その台詞にはツッコミ所があるよね? ていうかそんなので納得できると思ったら大間違いだ!」
「……センパイは私がオンナノコに見えないって言うんですか? 半裸の私を何回も見て居るくせに」
「それはお前が風呂上りにタオル一枚でうろつくのが悪い! ていうか論点ずらすな!」
 一緒に生活してから分かった事だけれど、耀は風呂上りにタオルという習慣があった。男として見られているのかいないのか。間違いなく後者だと思う。
「で、今日は味噌汁とご飯とシシャモですよね」
 彼女は僕の必死の叫びを無視して話を進める。相変わらずマイペースなのは変わってない。僕としてはそこを一番変えて欲しい。ただ、耀の場合、普通の人と接する機会が少なかったためにこんな性格になったんのではないかな、と少し思う。まぁ、大半の原因はこいつの性格にあるとは思うけどもね。
 耀とは買い物とかを一緒に行ったりしているし、事前の仕込みを見られているために食事のメニューはしっかり把握されて居る。ていうか、メニューが分かってるんだったら作れよ、お願いだから。何でいつも僕が作ってるんだよ? 男女共同参画社会は何処へ行った? ここはいつのまにか僕の知らない国となっていたのか? まぁ、アイツが居た時には買い物を手伝ってはもらえなかったからそこは助かるか……。
「ま、飯にしようか」
 僕は少し溜息をつきながら朝食の準備に取りかかる事にした。それを耀は羽毛布団に包まりながらにこにこと見ている。……勘弁してくれ。


 朝食が終わり、僕は食器類を片付けて、耀はシャワーを浴びる。……この段階で理不尽を感じているのは僕の気のせいなんかじゃ無いと思う。ていうか、手伝え。
「せんぱーい、タオル忘れましたぁ」
「はいはい」
 手についた泡を流して、箪笥からタオルを出して洗面所の洗濯機の上に置く。ちらりと風呂場を見ると耀の白い肌が曇り硝子に透けて見えた。……別にやましい事とか考えていない。大体、ここにきたのも耀のせいだし、僕は一切いやらしくない。覗きなんて人間の為す行動の中で最低の所業の一つだ。そんな物を僕がする訳無いじゃないか。
「先輩、覗きはいけませんよぅ?」
「って、やってねぇよ!?」
「というわけでまたパフェ奢ってくださいね」
「なんでだよっ!? しかも、この前はそんなのなくても奢ったよ!」
「この前はこの前ですよぅ。というか、いつまでも覗いてないで下さい!」
 どうにもこうにも理不尽だと思う。けどまぁ、耀ならそれを許せるって言うのはやはり僕は惚気ているようだ。……なんかなぁ。
 洗面所から出ると携帯電話が鳴っていたのでまず画面確認。相手によって対応が代わるのは仕方ない。深螺さんにいきなりぶち切れモードで出たりするとその場はともかく後々怖いのである。相手を確認したら出る気がうせたけれども、そこで出ないと言った対応を取るのも流石に悪いと思ったので取り敢えず出る事にした。
「ハイ、もしもし」
「やほー、式見君、元気かな?」
 携帯電話の中から聞こえてくるのは声優のような綺麗なテノールだ。
「うん、タナトス、君の声を聞いてものすごく元気じゃなくなった。取り敢えず斬っていい? 生憎、僕も暇じゃないんだけど」
「ちょっと待ってよ式見君、相変わらずボクの扱いだけ酷いよっ」
 僕のそっけない態度にタナトスが慌てているのが電話越しに伝わってくる。……深螺さんといい、コイツといい、神無家関連の人たちってこちらが上手に出れば出るほど弱いなぁ。
「で、何? 用件無いなら速く斬るからさ」
「……もういいや……、あのさ、耀さんとはちゃんと上手くやれてる?」
 何故か嘆息した後にタナトスは用件を切り出した。……意外とコイツも心配性だよなぁ。
「大丈夫、問題ないからさ。タナトスも安心していいよ」
「ち、ちがうって。心配とかじゃなくってさ。ボクの関連した事で残っている不安材料は式見君達だけだからさっ」
 ……不安材料って事は心配しているって事だと思うんだけど。まぁ、タナトスもタナトスであの事件の事後処理やら普通に仕事とか色々大変だからこれ以上いじらないであげよう。
「うん、僕の物質化能力の範囲も五メートルで安定しているし、耀の身体も特に拒絶反応が無いから大丈夫だ」
「分かった。じゃぁまたかけるよ」
 タナトスはそう言って電話を切ろうとしたので僕は慌てて声をかける。
「あっ、ちょっと待って」
「ん? 何?」
 一瞬、躊躇したけれども深呼吸して言葉を出す。
「ユウは元気か?」
 タナトスはその言葉に少し間を空けて答える。
「うん、元気だよ。そうだ、今度二人でそっちにいくから」
 気がつくと自分でも少し微笑んでいることに気付いた。あの二人が上手くやれているのなら僕としても安心だ。僕としてはそちらの二人が一番の不安材料なのだから。
「ん、じゃ」
「じゃ」
 通話を終えてボーっとしながらテレビを見る。テレビの中の色のある世界を見てテレビの周りを見る。テレビの中と同じような色のついた世界が僕を包んでいることを実感する。もうどこにも灰色のあの世界が無い。そしてそれを嫌っていた僕もいない。
 僕をここまで変えてくれたのは誰だろうか。陽慈とアヤが初めて僕の世界に入ってきた。その後に先輩が僕の知らない世界を見せてくれた。鈴音が僕と周囲を繋ぎとめてくれた。そして、ユウが僕の世界を変える切っ掛けをくれた。タナトスは最後に僕の背中を押してくれた。
 そして、耀が世界を彩りつづけてくれている。
 それが本当になんでも無い事かもしれないけれども、僕に取ってはとっても大きな事で、だから、この世界からどう思われようと僕は生きていたいと思う。
 とか自分で考えてしまって反省、そんなにシリアスな事を考えるなんてらしくないぞ式見蛍。そういえば、洗いものもまだじゃないか。……はぁ。

 どう考えても今の季節少し寒いのにそれでもタオル一枚の人がいたのでその人に服を着せて、僕も少し着替えて家を出る。
「せんぱーい、寒いです」
 隣で耀が手を擦り合わせながら僕を見る。普通に寒そうだ。だったら自分の手袋でも持ってくれば良かったのに。仕方ないから僕の手袋を上げる事にした。
「ほら、手袋」
 僕の言葉に耀は僕の前に廻りこむ。良く分からないけれども少し怒っているようだ。
「センパイは分かっていません! 手袋だったら私も持っていますよ! ていうか、アレですよぅ。手を繋ぎたいけれどもそれをあえて言わない微妙な乙女心です。そこのところをセンパイはまだ理解していません! 少しはニャー君を見習うべきです!」
 ばばんっ、と耀は右手のミサンガを僕に押し付けてくる。
「今自分で微妙な乙女心全て言っちゃったし! 理解が難しいから乙女心じゃないのかよっ! って、ニャー君見習えって何処をだよっ!?」
「センパイ、ニャー君は希代のプレイボーイですよ? 乙女心をばっちししっくり理解しています。むしろニャー君を見習わず誰を見習えというのですか?」
「だから一回ニャー君の設定全てを僕に教えろっ!」
「イヤですよーセンパイ。乙女のプライバシーは永遠なのです」
「ニャー君の性別ってなんだよっ!」
「あっ、紗鳥センパイと鈴音センパイだ」
「話を逸らすなっ」
「いや、本当ですよぅ」
 そう言って耀は僕の後ろを指差した。恐る恐る振りかえるとそこには何処か偉そうな先輩と少し慌てた感じの鈴音が立っていた。相変わらずの二人に僕は少し苦笑する。
「どうも、先輩と鈴音」
「よぅ、後輩と耀」
「っや、蛍と耀さん」
「うぅ、紗鳥先輩も鈴音先輩を私を先輩の後に言う……」
 耀は取り敢えず置いておく。
「……先輩と鈴音はどうしたんですか? 二人で行動するなんて珍しいと思うんですけど」
「あー、私達は少し買い物しにきただけだ。そういう後輩達こそどうしたんだ?」
 僕と耀が一緒にいるのは珍しくない。それこそ買い物にはしょっちゅう一緒に行く。だけれども、今日の目的は少し違う。けれどもそれを先輩たちに言うべきかどうか少し迷った。……先輩や鈴音は色々な事を心配しすぎる傾向があるからなぁ。そうは言ってもあの一連の事件では僕がものすごく迷惑をかけたし、それにこの二人を適当にはぐらかすのもイヤだったので、正直に言うことにした。
「耀の定期検診です」
「あっ……」
 先輩と鈴音は一瞬気まずそうな顔をした。これだから少しいうのがイヤだったんだけど仕方ない。
「でも、全然心配無いですよぅ。先輩が一緒にいてくれる限り、私は大丈夫です。だから、紗鳥先輩も鈴音先輩もそんな顔をしないで下さい」
 耀はそう言って朗らかに笑った。こいつのこの明るさを僕は本当に凄いと思う。何にも確かな証拠が無いのに、耀がそれを言うと自然と信じられる。一番本人が不安なはずなのに。
 だから僕はこの笑顔を消したくなかったんだ。


 先輩と鈴音も用があったので話もそこそこに僕達はわかれ、病院に向かった。
 病院の受付の人は耀の顔を見るなりてきぱきと電話をしてパソコンに何かを打ちこむ。僕たちがここを訪れる度に彼女の動作の速度はどんどん上がっている気がするけれどもどうなのだろう。やっぱり、普通に顔を覚えられてるのかな。
 清潔感を感じさせる材料不明の床と抗菌背れて良そうな壁を横目にいつもの診察室に通された。そこに待っていたのはいつもの主治医、勿論、神無家の関連者だったりする。まだ比較的若い女の先生でなんでも深螺さんの一押しらしい。まぁ、あの人は『この人ならきっと大丈夫なはずです』と微妙なコメントしかしてくれなかったけど。
「じゃぁ、耀ちゃん、いつもの検査をするわ。いいよね?」「ハイ、お願いします」
 耀がするいつもの検査とは触診聴診から始まって、レントゲン、心電図、MRI等の検査だ。
 その間中僕は耀と一緒に色々な検査室を廻る。もうすっかりと定番と化したコースだ。
 それを全て終える頃には耀も僕もすっかりと疲れ果ててしまうほどに一杯ある。耀はそれでもいつもそう言った弱音は言わないで、冗談混じりの台詞しか言わない。だから僕も冗談のような会話を続ける。それが少しでも耀の不安を取り除ければ良いと思いながら。



 八月十一日。僕は一つの選択をした。彼女、耀を生きさせていたかった。ずっと一緒にいたいと思った。だから、僕は、あの日ユウをタナトスに預け、彼女の病室に走った。医者に彼女の病状を聞いた。冠状動脈が未発達の為に手術すら出来ない身体、医療の発達に間に合わなかった成長、欠損した心臓。それらを聞いて何が僕に出来るかと考えて一つの結論に達した。自分の物質化能力で彼女の欠損部位を補う。これしかないと思った。だから、その部位に関する情報を不思議がる医者から全てもらい、イメージを創り上げた。失敗は許されない僕の人生最初で最後の手術。後で聞いた話だけれども全てがギリギリだったらしい。彼女の心臓に欠けたところが無くなり、僕の力によって動き出すのと、彼女が本来死ぬはずだった時間はすれ違い重なる事はなかった。それ以来、僕の物質化能力で活動している彼女と僕は離れられなくなった。たまにそれを自分でもずるいと思うこともある。そんな時は彼女にその気持ちを言う。すると彼女はいつもこう答えるのだ。

 やだなぁ、センパイとずっと一緒なんて私の方が望んだ事じゃないですかぁ。

 そう言って耀はいつでも笑う。僕を笑わせるように優しく笑う。




 病院帰りの夜は流石に僕も耀も疲れてしまって布団に倒れこむ。
「なぁ、耀」
「何ですか?」
 少し離れていた耀が転がってきて僕の隣に来る。その動作が妙に愛らしくって僕は思わず抱きしめた。
「きゃっ、何するんですか? センパイ!」
 そう言いつつもしっかりと耀は僕の背中に腕を回している。ふと彼女の腕を見ると、その肌には今日の採血による注射針の痕があった。今日の痕の横にも無数の痕があり、それは多分幼い頃からの跡で、この先何年も消える事はないだろう。ふと、そんなコトを考えてしまって彼女を抱く腕に力が入る。
 いつも僕の前で笑っている彼女。僕に基本的に甘えてるけどちゃんと甘えたりしない彼女。
 そんな彼女が好きだから、僕は、少しだけ勇気を出す事にした。
 耀を放して耀に背中を向けて座る。こうすれば彼女の表情も見えないけれど、自分の表情も彼女に見えないだろう。それを確認して声をかける。
「ねぇ、耀」
「……なんですか?」
 そうして、僕はこの先数年間言いそうもない傲慢な台詞を吐く事にした。
「僕に甘えろ。いつも笑顔でいなくたって良い。泣きたい時があるならば泣いて良いし、不安があるなら僕に迷わず打ち明けろ。いつだって僕は耀から離れる事はないし、耀より先には自殺しない。だから、僕の前でだけはちゃんと耀でいてくれ」
 僕の台詞に耀はしばらく無言だった。けれどもなにか息を押し殺すような声がしてきた。僕は振り向く。
「……」
 うわぁ、アレだ。耀さん、すっごく、笑いを堪えているんですけど。そんなに、おかしかったですか? 少し、泣きたくなるけどもう一つ言っておくべき事をいっておこうと思った。
「あと一つ、そろそろ『センパイ』じゃなくて名前でよんでくれ」
 その言葉を吐き出して、僕は布団で寝る事にした。耀はくすくすずっと笑っている。
「おやすみ」
 少し不機嫌な僕は枕を抱き寄せた。
 そうして眠ろうとしていると背中から柔らかな感触が伝わってきた。
「あの……」
 僕は気付いていない振りをした。そんな僕に言った。

「     」

 ……最高の気分で僕は眠りについた。


公開:2007/05/05

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