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つながる輪、つなげられる輪。
著者:ルーラー

○???サイド

 私はあのときからずっと頭を悩ませていた。
 なぜだ?
 なぜあのとき、マルツ・デラードがこの世界に来た?
 あのときこの世界に来るのはサーラ・クリスメントだったはずだ。少なくとも『前の世界』ではそうだった。
 『闇を抱く存在(ダークマター)』は式見蛍とサーラとシルフィードが倒すはずだった。
 どこで歯車が狂った?
 なぜ歯車が狂った?
 いや、歯車が狂ったことなど、今更だな。なにせ、『さらにひとつ前の世界』では、『あの世界』から『界王(ワイズマン)』以外の誰かがやって来ることすらなかったのだから。
 ……私が『さらにひとつ前の世界』で彼を『能力保持者』にしたのが、歯車が狂った原因か?
 いや、それは違うだろう。
 おそらく狂い始めたのはいまから『みっつ前の世界』からだ。
 そう。『界王(ワイズマン)』がこの世界に干渉してくるようになってからだ。それから私は毎回頭を悩ませることになっている。
 どうやらそれは『今回の世界』でも例外ではなかったようだ。
 まあ、過ぎたことで悩むのはよすとしよう。すでに回り始めてしまった歯車は、私にすら止めることは出来ないのだから。
 さて、まずはあのお嬢さんをなんとかしなければ。
 私からの情報を完全には信用していないだろうしな。
 まあ、『前の世界』でもやったことだ。
 重要なのは、『今回の世界』では失敗しないこと。
 すべてを私のシナリオ通りに動かすことだ。
 そう。すべては『私が望む世界』のために――。


○神無鈴音サイド

 深夜、私の家にて。

「ふぅ〜、いいお湯だった〜」

 そう洩らしながら私の部屋に入ってきたのは、タオルでその長い髪を拭いているパジャマ姿のサーラさん。
 本当、見れば見るほど22歳の女性には見えない。顔の造形が美人というよりも可愛いと思わせるものだから、なおさらだ。おまけに、あの薄緑色の服の上からではよく分からなかったけど、スタイルはモデル並み。
 ……顔は可愛くてスタイルは抜群だなんて、これはもう、ちょっと反則の域なのではないだろうか。

「……ふう」

 窓のカーテンを閉じながら自分の身体と彼女のそれを見比べて、ため息をつく私。

「どうしたの? 鈴音ちゃん」
「あ、いえいえ、なんでも」

 パタパタと手を振ってごまかすことにする。サーラさんもりんもまだ『?』ってなってたけど、説明するのもなんだかバカらしいし。
 さて、訊きたいことは色々とあるんだけど、どう話し始めたものか……。そんなことを考えていると、

「じゃあ次、私がお風呂入ってくるね」

 そう言ってりんが部屋を出て行った。
 私もサーラさんもどう話を始めたものか考えているため、訪れるしばしの沈黙。
 やがて、それを破ったのはサーラさんのほうからだった。
 私の腰かけているベッドに座り、にっこりと――同性の私の目にも魅力的に映る笑顔を浮かべて、

「そうそう、ケイくんから訊いたんだけど、『闇を抱く存在(ダークマター)』を倒すのに協力してくれたんだってね。ありがとう」
「いえ、私にやれたことなんて、ほとんどなくて……」

 サーラさんは首を横に振って、私の言葉を否定する。

「そんなことないよ。ケイくんが言ってたよ『鈴音がいなかったら勝てなかった』って」
「蛍が?」

 蛍がそんなことを言っていたなんて、正直、予想もしていなかった。嬉しいと同時に、なんだか胸が高鳴る。すると私の表情を見てサーラさんが、今度はどこかイタズラっぽく笑った。

「鈴音ちゃん、ケイくんのことが好きなんだね」
「……え? え!? な、なにをいきなり……?」
「表情を見れば分かるよ。というか、分かりやすすぎ」
「そ……、そう、ですか」

 そのサーラさん曰く『分かりやすすぎ』な表情を見て、蛍はなんで気づいてくれないのだろうか……。

「その感じからすると、やっぱり告白はまだ?」
「え、ええ。まあ……」

 『告白』の言葉に真っ赤になる私にサーラさんは過去を懐かしむように続ける。

「なんだか微笑ましいなぁ。私にもそういう感じの頃があったんだよね」
「そういう感じの頃、ですか?」
「うん、そう。ファル――あ、私の好きな人の名前だけどね――その人となんの目的もなく旅をしていたとき、私もそういう表情してたのかなぁ、って」
「その人と、いまは……?」

 やっぱり『告白』とかしたんだろうか。そして想いは届いたのだろうか。果たして、サーラさんはベッドに腰かけると考え込むように人差し指を立てて口元に持っていって天井を見上げた。

「う〜ん……、まだ微妙な関係のままかなぁ。とりあえずは『パートナー』? いや、ファル、私の気持ちは知ってるし、私もファルは私のことが好きだって自惚れでなく分かってるんだけどね」

  照れずにそこまで言えるなんて、すごいなぁ。これが年齢の――というか、人生経験の差なのかなぁ。私もこれくらいはっきり言えたら、また違うのかなぁ……。

「まあ、でも、というか、だから、というべきか、ともあれ告白とか、そういうのを必要とせずにいまに至ってるんだよねぇ」
「つまり、よく言う『友人以上恋人未満』っていうやつですか?」

 まるでマンガみたい、と思ってそう口にすると、

「それとは違うと思うよ。恋人だけど、口に出して『恋人』とか言ったことは一度もないってだけ」
「それで、いいんですか?」
「いいんじゃないかな。私だってまだ彼との将来を具体的に考えてるわけじゃないし。要は気持ちが繋がってるっていうことが大事なんだよ」
「将来って……?」

 なんとなく予想はついたけど、つい尋ねてしまった。だって、恋人との『将来』っていったら、やっぱり……。

「ん〜、まあ、結婚とか? でも私、あんまり結婚願望ないんだよねぇ。ひとつの所に留まってるよりも、あちこちを旅してるほうが好きだし。――私、放浪癖(ほうろうへき)があるからねぇ」

 あまりそうは見えない。どちらかというと、家庭に収まっている良妻賢母(りょうさいけんぼ)タイプに思えた。しかし本人が言う以上、そうなのだろう。
 ふと、彼女が台所で料理などをしているところを想像してしまった。……なんだかすごく絵になる光景のような気がする。
 私が少し黙っていると、この話はこれでおしまい、という風にサーラさんが尋ねてきた。

「ところで、私に訊きたいことがあるとか言ってたよね? それってなに?」

 そういえば、喫茶店でそんなことを言った覚えがある。これは私の知的好奇心からくる質問だった。知っていても、そうでなくても、蛍が問題に直面しているという現状は変わらないだろう。でも、もしかしたらなんらかの突破口になるかもしれないから、と心の中で言い訳して、私はサーラさんにその質問をした。

「それは――」


○式見蛍サイド

 明けて翌日、月曜日。
 学生なら平日には必ずそうするように、僕は学校へとやってきていた。
 扉を空け、自分の席へと向かう。ユウも授業が始まるまではいつものように僕と一緒に行動するつもりのようだ。
 そう、結局『異世界からやってきた人間』が増えようと、『闇を抱く存在(ダークマター)』とかいう奴を倒そうと、僕の日常に大きな変わりはないわけで。というより、日常が変わることなんて望んでもいないわけで。
 昨日までの疲れが少し残っているからなのだろう。なんとなく身体がだるく、重い。一言で言ってしまえば、かったるい。
 僕の隣の席に鈴音の姿を認め、これまたいつも通りに声をかける。彼女、ここのところ朝は決まって機嫌が悪かったが、さて、今日はどうだろう。

「おはよう、鈴音」
「あ、おはよう、蛍」

 とりあえず機嫌は悪くないようだ。一安心。

「ユウさんも、おはよう」
「おはよう、鈴音さん」

 平和だなぁ……。うんうん、平和が一番だよ、やっぱり。などとしみじみとしていると、

「そうそう、蛍」
「ん? なんだ?」
「昨日の夜、色々とサーラさんから聞いたのよ」
「色々と、ねぇ。それで?」

 あとになって思えば、このとき軽々しくうなずいたのは失敗だったかもしれない。

「例えば『聖戦士』とかのことね。ニーナさんとシルフィードさんがそういうことを話してたけど、憶えてる? 蛍」
「ああ、憶えてるよ。『聖戦士』だからやれたんじゃなく、やれたから『聖戦士』なんだ、とか言ってたあれだろう?」
「そうそう。それでサーラさんはその『聖戦士』だったのよ」
「『聖戦士』って、戦いが強い人のことだと思ってたけど……?」
「サーラさん、けっこう強いらしいけど?」
「マジで……?」
「うん」

 なんだか、サーラさんに抱いていた年上の女性に対する幻想みたいなものが音を立てて崩れた……気がした。普段はあんなにおしとやかそうだけど、いざ戦いとなるとバリバリ攻撃したりするのだろうか。それも肉弾戦とか……?

「で、『聖戦士』は全部で七人いてね。まず以前ニーナさんが蛍のアパートで言っていた『聖蒼の王(ラズライト)』の力を継いだ人、『虚無の魔女』ミーティア」
「なんだか悪人っぽい称号だな」
「称号というか、二つ名らしいけどね。それで、二人目、『爆炎(ばくえん)の戦士』アスロック。それと『天空の神風(かみかぜ)』ドローア」
「ドローア? その名前、どこかで聞いた気が……」
「ほら、ケイ。昨日マルツが言ってたじゃん。『現代の三大賢者』のひとりに『沈黙の大賢者』ドローア・デベロップがいるって」
「あ、ああ。それで聞き覚えがあったのか。――なあ、鈴音。その『天空の神風』っていう二つ名の『聖戦士』って、そのドローアのことなのか?」
「さあ……。サーラさんからは名前しか聞かなかったから」
「苗字は分からないってわけか」
「うん……。で、四人目、『静かなる妖精』セレナ。五人目はサーラさんのパートナーらしいんだけどね、『悪魔殺し(デモンズ・キラー)』ファルカス」

 『悪魔殺し(デモンズ・キラー)』……、うん、すごい二つ名だな。敵に回したら怖そうな予感がヒシヒシとする。

「六人目はサーラさん。二つ名は『地上の女神』だって」
「なんか、すごく『らしい』二つ名だな」

 僕のその言葉に鈴音は軽く笑って続けた。

「そうね。それと最後の七人目は『黒の天使』ニーネ」
「ニーネ? そういえば昨日も喫茶店でそんな名前が出たけど……」
「ニーネさんはニーナさんと同じ『界王(ワイズマン)悪夢を統べる存在(ナイトメア)の端末』なんだって。サーラさんはニーナさんたちのことを『彼女たちは同一にして別個の存在』だって言ってたけど。あ、人間でいうところの双子みたいなもの、とも言ってたわね」
「分かるような分からないような……」
「それで七人が『聖戦士』と呼ばれることになった経緯(いきさつ)だけど――」

 うっ……。これは本格的に長い話になりそうだ。なので話題の転換を図ることにする。

「それはそれとして、鈴音。昨日の喫茶店でのことだけどさ。あの黒いワンピースを着た女の子のこと、憶えてるか?」
「え? うん。蛍、彼女が誰か知ってるの?」
「いや、知らない。だから鈴音に訊こうと思ったわけなんだけど。鈴音は知ってる感じだったし」
「そうね、一応知ってる……かな」

 なんか、微妙な返事だった。『一応』って、『かな』って……、なんか、歯切れ悪いなぁ……。

「彼女とは直接的な面識は正直、あまりないのよ。会ったのもあれが初めて。ただ、同業者ではあるから、顔は知ってたの」
「同業者? つまり、彼女も霊能力者?」
「彼女もそうだけど、彼女の家が、ね」

 鈴音はなぜか憂鬱そうに息をつく。まあ、同業者ともなると色々なしがらみがあったりするんだろう。それくらいは僕でもなんとなくは分かった。

「彼女の名前は九樹宮九恵(くきみや ここのえ)。九樹宮家の長女で、霊能力者の能力としては、まあ、使い方にもよるけど、多分私よりは上でしょうね」
「九樹宮九恵……」

 特に意味もなく彼女の名前を口の中で転がしてみる僕。しかし、それがいけなかったらしい。

「ところで蛍、どうしてそんなに彼女のことを気にしてるの?」
「いや、なんとなく」
「本当に?」
「本当だって……」

 なんだか、鈴音の機嫌がまた悪くなり始めているようだった。僕が一体なにをしたっていうんだよ。まあ、これも僕の『日常』なんだけどさ。でもやっぱり、

「死にてぇ……」

 鈴音の問い詰めが激化する前に先生が教室に入ってきて、チャイムも鳴ってくれた。あとは授業を受けている間に鈴音の機嫌も直ってくれることだろう。そう思いたい。
 そして、ホームルームが始まった。


○九樹宮九恵サイド

 事件はその日の昼休みに起こった。
 私が私の通う高校――都麦学園(つむぎがくえん)の自分のクラスで昼食を食べ終えたところで、

「たっ……、大変だ! 篠倉(しのくら)さんが!」

 そう叫んで男子生徒が飛び込んできた。
 運動系の部活をやっているのだろう。引き締まった体躯と、スポーツ刈りにしている頭。髪は黒。さわやか好青年といった感じの顔立ち。
 ふむ、彼は私の記憶が確かなら、木ノ下 瞬(きのした しゅん)という名のクラスメイトのはずだ。私と、その篠倉綾(しのくら あや)の。
 彼は大声で続ける。

「しっ……、篠倉さんが屋上から飛び降りようと……!」

 私はその言葉を聞いて即座に立ち上がった。
 ここで私のことを誤解されても困るのだけれど、私は別に彼女の心配をしたわけではない。彼女とは別に友達というわけでもない。ただ、やはり自分の通う高校で飛び降り自殺なんてあったら、誰だって愉快には思わないだろう。それをしようとしているのがあの篠倉綾なのだから、なおのこと。
 それに、これが一番重要なことなのだが、私には彼女に用がある。だからいま死なれては困る。昼食を終えたらコンタクトをとろうと考えていたくらいなのだから。
 せめて放課後なら、おそらく止めはしなかったのに……。
 そんなことを考えながら、私は全速力で屋上へと向かった。


 腰ほどまである長い髪を吹く風に遊ばせている私のクラスメイトの少女――篠倉綾はこちらに背を向け、手すりに両手をかけていた。
 なるほど、確かにこれは自殺しようとしているように見えるだろう。
 しかし私には視(み)えた。
 飛び降りまいと必死に抵抗している彼女の精神(こころ)が。
 そしてもうひとつ。彼女にとり憑いている『両の腕を持たない悪霊』の姿が。
 だから私はスカートのポケットから一枚の札を取り出し、

「オン!」

 その悪霊に思念を送る。
 しかし……『完全憑依型』ではないものの、人間に憑依できるだけあって、なかなかに手ごわい。
 しばし、せめぎ合いが続き――

 バリッ!!

 ようやく引き剥がすことに成功した。
 そのまま向かってこられたら少々マズいことになっていたのだが、悪霊は幸い、そのまま空の彼方(かなた)へと逃げていく。
 視線を戻すと、意識を失ってその場に崩れ落ちている篠倉綾の姿。さて、記憶を失っているだろうから、どうやってフォローしたものか……。
 しかし彼女、よくあんな悪霊に抵抗できていたものだ。普通、数秒で自分の意志を失うはずなのに。
 まさかとは思うけど、この娘、一度悪霊に憑依されたことがあるんじゃ……。
 まあ、それはどうでもいいか。とりあえず昼休みの間に話したいことがあるし、起こすとしよう。
 私はしゃがみ込んで彼女の肩を軽く揺さぶった。
 さて、どうやって『彼』のことを尋ねたものか……。


○式見蛍サイド

 放課後。クラスを出ながら、僕は鈴音に話しかけた。

「あ、僕はスーパー寄っていくけど、鈴音はどうする?」
「あれ? 昨日買い物したんじゃなかったっけ?」
「したけど、大抵のものはマルツに食べられたんだよ……。アイツ、あそこまで大食いじゃなかったと思うんだけどなぁ」

 そこでマルツをフォローするように口を開くユウ。

「マルツは『魔法力を多く消費したからだ』って言ってたよね」
「え? そうなの? じゃあサーラさんの場合も……?」

 額に汗をかきながら鈴音。そのまま黙り込んでしまう。

「それでどうする? 鈴音」
「あ、うん。私は先に帰ることにするよ。りんとサーラさんが待ってるだろうしね」
「まあ、そうだよな」

 あの二人なら人の言うことを聞かずに暴走することはないとは思うけど。マルツとは違って。……はぁ、同居人を交換してほしいなぁ、ユウとりん、マルツとサーラさん、といった具合に。いや、やましい考えは抜きにして。
 ちょっと想像してみる。……うん、ユウとマルツがいるのに比べて、なんと平穏そうなことか。……ん? なんだろう。ユウはともかくとして、マルツが鈴音の家で暮らしているところを想像したら、妙にムッときたぞ。一体なんだっていうんだ?

「あ、ねえケイ」

 黙り込んだ僕の袖を引っ張ってユウが校門のほうを指差す。考え込んでる間に校舎からは出たらしい。無意識に上履きから外履きに履き替えてもいるんだから、無意識下の行動ってけっこうすごい。
 いや、それはともかく。

「誰だろうね? あの人」
「さあ、僕に訊かれてもな……」

 校門の所には豪奢(ごうしゃ)なドレスみたいな服を着た金髪碧眼の少女の姿があった。髪は軽くウェーブがかかっており、腰くらいまでありそうだ。遠目にもけっこうな美少女(美女?)だと分かる。
 年の頃は僕より少し上、といったところだろうか。大人びて見えるが、いくらなんでも二十歳にはなってないと思う。おそらく。

「あれ? あの人は……」
「ん? また知ってる相手か? 鈴音。最近鈴音がらみの因縁、多くないか?」
「因縁って……。私もとっさに名前が出てこないのよ。どこかで見た覚えのある顔だとは思うんだけど……」
「知り合いに似てる、とか?」
「うん。印象としてはそんな感じ」

 と、そこで金髪碧眼の少女はこちらの姿を認めたらしく、ツカツカという効果音がぴったり合いそうな歩調で歩いてくる。ここ、校内なのに無断で部外者が入ってもいいんだっけ……? まあ、ゆるーい学校だから問題ないか。あの外見のせいか、注目はすごく受けてるけど。

 僕の前まで歩いてきて、彼女はようやく口を開いた。

「見つけましたわ。あなたがわたくしの探していた『歪み』の源ですわね」

 僕はその彼女の自己紹介もなにもない第一声に、しかし、絶句していた。
 なんで僕が『歪み』だって知っているのだろう……。
 絶句している僕たち三人に構うことなく、彼女は続けてきた。

「初めまして。わたくしはスピカ・フィッツマイヤー。『歪み』の源を処理する者ですわ。以後、お見知りおきを」

 その言葉に僕たちは、やはり絶句するしかなかった。『処理』の意味があまりにも簡単に推測できてしまったから――。


○九樹宮九恵サイド

 篠倉綾から聞き出せたことは、どれもあの男――黒江のもたらした情報を裏づけるものばかりだった。彼の通う学校、よく行くスーパー、登下校の際に利用する駅。ただ、彼の能力と、その望み、それと彼が『世界の歪みの中心』であることは彼女も知らなかったようで、まったく裏づけがとれなかった。
 肝心なことのみ裏づけがとれずじまいで、私は苛立たしげな息をついた。これでは徒労とそう変わらない。
 そんなことを思いつつ商店街を歩いていると、前から見知った男が歩いてきた。
 黒いスーツに身を包む27〜28歳の男性――黒江だった。
 私が視線を向けると、黒江は朗(ほが)らかに声をかけてくる。

「やあ、お嬢さん。裏づけのほうはとれたかい?」

 どうやらこちらの動きは読まれていたらしい。だからといって別に私に困ることなどないわけだけど。

「大体はね。肝心なところは分からずじまいだったけど」
「しかしお嬢さん、君はまだ私のことを信用していないようだね。本当に裏づけをしているんだから」
「信用されてると思っていたの?」
「さて、どうかな」

 付き合いきれない。私が歩き出すと、彼は隣に並んで続けてきた。

「ところで《見えざる手》はどうだった? 手ごわかったかい?」
「《見えざる手》?」

 頭の中で検索をかける。しかしそんな固有名詞はヒットしなかった。
 それを見透かしたかのように口を開く黒江。

「今日の昼にお嬢さんが戦った『両の腕のない悪霊』のことだよ」
「なんでそのことを……!」
「私はなんでも知っているのさ。どうだい? これで私のことも信用する気になったかい?」

 信用なんてできるはずもなかった。この男は正直、恐ろしい。それでも、彼のもたらす『情報』は信用できそうではあった。

「時と場合によりけりね。それで、彼が『霊体物質化能力』という能力(ちから)を持っているのも本当なの? また、彼がこの世界と別の世界の境界を曖昧にしているというのも?」
「もちろん本当のことさ。まあ、私としてはお嬢さんの信じたいように信じてもらえれば、それで構わない」

 つかみどころの無い返答だった。しかし私はそれを無視して、こう返す。

「もしそれが本当なら――私や九樹宮家は彼の敵に回ることになるわよ」
「九樹宮家はともかく、君は彼の敵にはならないさ」
「それはどうかしらね。確かに私は彼を積極的に排除しようとは思わない。でも危険と判断したら家に報告くらいはするわ」
「そうだな。確かにそうするかもしれない。けれどお嬢さん自身は彼の敵にはならない。絶対にね」
「なにを根拠にそう言うの?」
「さて。君の胸に訊いてみれば分かることじゃないかな?」

 知った風なことを言う男だ。しかし、それが事実であることも、認めざるを得なかった。同時に悟る。いまになってようやく。この男は私の心を見透かしている、ということを。

「そうそう、もうしばらくしたら彼はいつも行っているスーパーに寄るんじゃないかな。彼にもう一度会いたかったら君も行ってみたらどうだい?」

 肩をすくめてそう言うと、黒江はおそらく意図的に歩調をあげ、私の前に出る。そしてそのまま歩調は緩めずに、商店街の角を曲がって行った。
 黒江の姿が完全に見えなくなると私は得体の知れないあの男の恐ろしさに、思わず身を震わせてしまった。
 それから身を引き締めるため、背筋をピンと伸ばす。そしてわずかに胸の鼓動を高鳴らせ、ゆっくりとした歩調で彼がよく行くスーパーに向かって歩き始めた――。


○???サイド

 これで私のシナリオ通り、式見蛍とお嬢さんは再び会うことになるだろう。
 さて、フィッツマイヤー家の人間も彼と接触したようだし、私もこれまで以上に上手く立ち回っていかなければ。
 そうそう、『魔風神官(プリースト)』シルフィードと、彼女の創りだした《見えざる手》のことも忘れてはならないな。
 それと予想外の存在、マルツ・デラードのことも、だ。
 とにかく、すべての事柄が式見蛍の成長に繋がるようにシナリオを書いていかなければ――。



――――作者のコメント(自己弁護?)

 どうも、短いお話になってしまいましたが、『マテそば』(僕のブログ内で決まった『マテリアルゴースト〜いつまでもあなたのそばに〜』の略称です)の記念すべき(?)第十話をここにお届けします。
 いや〜、ついにいきましたよ。二ケタ台。第一話を書いていたときにはここまで続くとは思ってもみませんでした。でもちっとも最終回に近くありません。むしろようやく事件が起こり始めた、という感じです。
 とりあえず第一章『自分の意味は』は第十八話くらいで終わる予定であることをここに述べておきます。今後、どんな展開を見せるかお楽しみに。

 今回は『九樹宮のお嬢さん』のフルネームが明らかになりました。それと、蛍たちとスピカの邂逅(かいこう)も描いております。ほんのさわりだけですけどね。あと、『???サイド』が誰かも今回で確信を持って分かったのではないでしょうか。まあ、まだ当分は『???サイド』で通しますが。
 そしてなにより、僕のブログ内で募集したキャラクターが登場しています。一回目の『九樹宮九恵サイド』で登場した木ノ下 瞬(きのした しゅん)くんですね。彼の生みの親はシキさんです。募集に応えてくださり、本当にありがとうございます。試験的に使ってみたのでチョイ役になってしまいましたが、その辺りはご容赦下さい。
 生みの親といえば、『界王(ワイズマン)』ニーナ・ナイトメアや黒江は僕が生み出したのですが、勝手なことばかりするので困っています。特に黒江! なに意味ありげに『前の世界』とか『歯車が狂った』とか言ってやがるんでしょうか。意味ありげなことを言えば格好いいとでも思っているのでしょうか、ヤツは。
 おかげでつじつま合わせに苦労しました。そりゃ僕だって「お、こりゃいいネタかもしれない」とは思いましたよ。でもだからって、ネタの細部が決まっていないうちからそんな意味ありげな発言をすることないじゃないですか。
 まったく、キャラクターというのは冗談抜きで生きています。ニーナにも過去、何度も意味ありげな発言をされて伏線の回収を任せられましたが、いまのところその伏線を回収できる予定はまったくありません。本当、作者に迷惑ばかりかけて、どうにかならないものでしょうか……。
 二人ともノリのいいキャラですし、書きやすくはあるんですけどねぇ……。それゆえにか生き生きしすぎなのですよ。勝手な行動ばかり起こすのですよ。そういえば過去、ニーナにはブログを乗っ取られたこともありましたし。
 さて、グチっぽくなってきたのでこの辺りで今回のサブタイトルの出典を。
 今回は『スパイラル・アライヴ』(スクウェア・エニックス刊)の第八話からです。意味は『物語が輪のように繋がり始めた。でもそれは黒江に繋げられてのこと』といったところです。要するにすべてが黒江の思い描くままに進行しているということですね。いまのところは。

 さて、次は短編になるか、『マテそば』十一話を書くか、というところなのですが、実は僕、オリジナル小説などを置くホームページを作りたいので、そこに置く小説を一話と、ホームページを完成させるまではマテリアル二次はしばしお休みということになりそうです。
 あ、でもオリジナル小説のほうにもファルカスやサーラは出ますよ。というか、彼らが主人公となるお話なのです。それに『マテそば』と世界観を共有する物語でもありますから、出来上がったらぜひ読んでみてやってください。最終的には『マテそば』を含めて『五つでひとつの物語』とするつもりですし。
 それでは、また次のマテリアル二次でお会いできることを祈りつつ。


公開:2006/11/12

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