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そして、はじまる。
著者:ルーラー

○???サイド

 一体――私はなにをやっているのだろうか。
 私はただ彼の――式見蛍の力を見極めたかっただけだというのに。
 そして今の状況は、まさにその絶好の機会だというのに。
 ――彼らだけで『闇を抱く存在(ダークマター)』を倒せるか否か。
 それによって式見蛍の価値を見極めれば、それで済むことなのに。
 ああ――それなのに。
 なぜ私は――共に戦おうとしているのだろう。
 なぜ私は――彼を助けるようなことをしているのだろう。
 ちょっかいをかけるとはいっても、彼を助けるような行動をするつもりはなかったのに――。
 ――本当に、なぜだろう。
 私は人間ではないのに――しかし、その行動は人間と同じく矛盾に満ちている。
 私は人間ではないのに――おそらく人間と同じ本能を持っている。
 きっと――それが私にとっての不幸だったのだろう。
 そうに――違いない。
 ただひとつ――確かにいえることは。
 私は彼の価値を見極めることを放棄しようとしている――。
 それだけだった。


○神無鈴音サイド

 『魔風神官(プリースト)シルフィード』。
 そう呼ばれた女性が軽く肩をすくめて言う。

「別に特別な理由はないわ。ただ『なんとなく』よ」

 それに返すのはどこか態度の硬いニーナさん。どうしてそんな態度をとるのかは分からないけれど。

「へえ。なんとなく、ねぇ」
「私の性格はあなたが一番よく知っているでしょう? ナイトメア」
「昔ならそうだっただろうねぇ。でもいまのキミは昔と比べてずいぶんと変わったようだから」
「本質は変わってないわよ。生命(いのち)あるものを見れば放っておけなくなって滅ぼし、上からの――『魔風王(ダーク・ウインド)』様や『漆黒の王(ブラック・スター)』様からの指示がない限りは自分がもっとも楽しめるように動く。――おっと」

 ダークマターの放つ黒い波動を、はたくようにして再び霧散させるシルフィードさん。

「あまり悠長に立ち話もしていられないんじゃない? さっさとどう動くか決めないと」

 それもそうだ。相手が魔族だからかニーナさんは警戒してるけど、ダークマターをなんとかするのに協力してくれるというのだから、これを断るという選択肢は存在しない。ならシルフィードさんにはどう動いてもらうのがいいか、すぐにでも考えるべきだった。
 その辺りのことは当然ニーナさんも理解しているのだろう。すぐにうなずく。

「……そうだね。じゃあシルフィード、ボクと二人でダークマターの注意を鈴音さんから逸らそう。話はその間でも出来るし。――鈴音さん、ダークマターの攻撃はボクたちが抑えるから、その間にヤツから悪霊を引き剥がす役、よろしくね」
「――え……ええっ!? 私が!?」
「正直、他にテはないからね。じゃあ頼んだよ!」

 言うと同時、空間を渡ってダークマターとの距離を一気に詰めるニーナさん。それにシルフィードさんも続く。
 頼んだよ、と言われても正直困るのだけれど、いまはやるしかない状況のようだった。
 私は札(ふだ)を一枚取り出し、精神集中を始める。
 ダークマターに――いや、その中に居る悪霊に干渉し、少しずつその霊力を削り取っていく。
 瞳を閉じて行っているわけではないので、当然、ニーナさんとシルフィードさんの姿は視界にあるし、彼女らの会話も聞こえてくる。

「で、キミのその矛盾した行動は一体どういうわけかな?」
「――矛盾……? 私の行動のどこに矛盾があるっていうの?」
「だって、ケイくんたちも生命(いのち)あるものだよ。滅ぼそうとはしないの?」
「……彼以外の人間ならともかく、彼を殺すのは正直、惜しいわ。だって彼、面白い能力を持っているもの。予想できないなにかを――こう、面白いことを起こしてくれそうじゃない?」
「ふ〜ん。キミ、本当にそう思ってる? ボクにはどうも言い訳っぽく聞こえて仕方ないんだよね。面白いことを起こしてくれそう、なんて理由で動く性格だっけ? キミ。――違うよね。面白いことが起こっているところを傍観するか、あるいは絶対に面白いことに発展するって見極められるまでは――今回で言えばダークマターをケイくんたちが自力で倒すまでは、彼と関わろうとはしないはずだよね?」
「…………」

 シルフィードさんは無言でニーナさんから目を逸らす。
 いまの話を聞いて思ったのだけれど、ひょっとしてシルフィードさんは私たちのことをどこかで見ていたのだろうか。そしてニーナさんの言葉から察するに、シルフィードさんには私たちを助けるつもりなんてなかった……?
 ニーナさんがまるで糾弾するかのような口調でシルフィードさんに続けて尋ねる。

「そもそも、さ。さっきケイくんをかばったのはなんで? しかもボクが見た限り『とっさに』って感じだったし。――キミは誰かをかばうような性格じゃない。笑って見捨てるタイプだよ。本質が変わってないのならそれだって変わってない。――違う?」
「……言ったでしょう。『なんとなく』だって。本当に本質は変わってないわよ。ただの気まぐれ。それだけのこと」

 どこか苦しそうに小さく呟くシルフィードさん。この会話がすべてダークマターの攻撃をかわしながら行われているのだから、正直、驚く。しかも私に当たりそうな軌道のものは必ずはじき散らすという徹底ぶり。

「気まぐれ、ねぇ……」
「なに、その含みのある言い方は」
「うん? いや、ボクもかつて似たようなことをしてたなあって思って、ね」
「『聖戦士』たちの――ミーティアさんのこと?」
「そう。自分のことを理解してほしいのに、彼女に助けてほしいと思っていたのに、素直にそうとは言えなくて。これはただの気まぐれだ、なんて自分に言い訳してはミーティアさんたちに何度もちょっかい出して。そんなかつてのボクといまのキミがなんとなく重なって見えてね」
「――だから……? もしかして私もそうなんじゃないか、とでも思っているの?」
「うん。思ってる。間違いなくキミはケイくんになんらかの『救い』を求めてる。でないとキミがケイくんをかばったことの説明がつかないからね」
「ふざけないでもらえるかしら? 人間如きに『救い』を求めてる、ですって? 高位魔族の私が? そんなわけが――」
「そうじゃないのなら、キミの行動は魔族らしくない矛盾に満ちているってことになる」
「…………」
「それにね、シルフィード。人間っていうのは意外とすごいんだよ。あるときには漆黒の王(ブラック・スター)の一部を完全に滅ぼしてみたり、あるときには漆黒の王(ブラック・スター)の本体を滅ぼしかけてみたり、またあるときには『闇を抱く存在(ダークマター)』を滅ぼしかけてみたり、とね。なにより界王(ワイズマン)の心を救ったのが、そのキミの言うところの『人間如き』だし」
「それは『聖戦士』だったから――」
「『聖戦士』だったからやれたんじゃない。それをやれたから『聖戦士』と呼ばれるようになったんだよ。誰だって生まれたときから英雄だったんじゃない。だからこそ、人間は――生命(いのち)あるものは無限ともいえる可能性を持っているんだよ」
「それなら……なぜ私は生命(いのち)あるものとして創られなかったの? いえ、どうして……そう創ってくれなかったの? 無限の可能性を持つ存在として……」
「……シルフィード。やっぱりキミ、まだボクのこと憎んでる?」
「――当たり前よ。あなたのことを憎んでいない存在(もの)なんて、神族にも魔族にもいない……」

 悲痛な声でシルフィードさんはそう言葉を締めくくった。
 しかしなんでニーナさんが――界王(ワイズマン)が神族にも魔族にも憎まれているんだろう。界王(ワイズマン)はそのどちらをも創った存在――言うなれば生みの親なんだから、感謝されることはあっても憎まれるハズはないと思うんだけど……。
 やっぱり私の知らない過去があるのかな。あるいは私には想像も出来ないなにかがあるのかもしれない。

「ああもう! うっとうしい!」

 黒い波動をかわしたシルフィードさんがやりきれなさを吹っ飛ばすかのように腕を振るう。その数瞬あと、ダークマターの足元の地面が砕けた。どうやら一番最初にダークマターの放った不可視の衝撃波より数倍威力が上のものを放ったようだ。
 もっとも、あくまで威嚇(いかく)のための一撃だったようで、ダークマターに当てる気はないみたいだけど。

「なに避けてるのよ! ちゃんと当たりなさいよ!」

 いや、どうやら当てるつもりで放ったようだった。なんだかニーナさんと話しているうちに少しヒステリックになってしまったようだ、シルフィードさん。あるいはこれが地なのかもしれない。
 八つ当たり気味に次々不可視の衝撃波を放つ彼女。それは風のはじけるような音とともに、あるいはダークマターに、そしてあるいは周囲の地面に激突する。
 いま気づいたのだけれど、あの不可視の衝撃波の正体は高圧の風の塊ではないだろうか。あ、でもそれだけでダークマターにダメージを与えられるとも思えないから、シルフィードさんが風に自分の『力』を込めているのかもしれない。
 精神を集中させながらもそんな考察を私がしていると――

「しまった!」

 指先がわずかにかすったものの、黒い波動をはじき散らしきれずニーナさんが声をあげる。そしてその波動は一直線に私のところに向かってくる!
 もちろんニーナさんの指先が触れていたのだから多少なりとも威力は落ちているだろう。でも私は悪霊に干渉している真っ最中。干渉をやめないとその場を動くことも出来ない。かといって当たったら当たったでやっぱり干渉し続けることは出来ないだろう。いや、そもそもあの波動に当たって生きていられるのかどうか、非常に疑問だ。
 そんな風にのんびり思考を巡らせていたわけではないけれど、結果、私はその場を動かなかった。いや、動けなかったと言うほうが正しいかな。本家での修練の賜物(たまもの)か、精神集中を解くことこそなかったけれど、そんなものは焼け石に水だ。いや、焼け石に水をかけるほうがまだマシだろう。だって、一瞬なら冷めるのだから。でもいまの私はほんの少しも、半歩さえも動くことが出来なかった。
 時間が妙にゆっくりと流れる。その時間の中で少しずつ、でも確実に、私の命を奪うだけの威力を持っていると思われる黒い波動は私に迫ってくる。

「鈴音さん!」
「神無!」

 引き伸ばされた時間の中で聞こえるユウさんと真儀瑠先輩の声。ああ、蛍の声がないのが正直、残念かも……。
 そんな、自分でも呆れる思考をした直後。
 突如として私の視界に銀色の閃きが飛び込んでくる。そしてそれを持つ少年の姿も。それは私のよく知る少年――式見蛍と、彼の能力で創られた武器――霊体ナイフだった。
 蛍は自分の魂から創りだしたそのナイフで黒い波動を斬り裂く!
 瞬時に霧散する黒い波動。すぐ元に戻る引き伸ばされていた私の時間。
 そして、聞こえる蛍の声。

「鈴音! 大丈夫か!?」
「……う、うん。なんとか……」

 そう口にしてから初めて身体に震えが走る。それにしても、よくこんな状況になってまで悪霊への干渉を解かずにいられたなぁ……。
 ナイフを能力効果範囲の外に投げ捨てながら、安堵の息を突く蛍。

「そうか……。よかったぁ……」

 その言葉に思わず一瞬、気が緩みそうになった。気を抜いて、精神集中を――悪霊への干渉をやめてしまいそうになった。それほどに、その一言は嬉しいものだった。
 私は緩みそうになった気を引き締めて、悪霊への干渉を続ける。だいぶ相手の霊力は弱まってきたようだ。あともう少しで私にも引き剥がせるくらいまで霊力を弱められるだろう。
 ふと目をやると、ニーナさんとシルフィードさんが口ゲンカをしていた。

「まったく……。なにヘマをやらかしてるのよ、ナイトメア」
「しょうがないじゃん! 誰だって失敗はするよ! 大体いまのボクは普段と比べてまったく力が出せない状態なんだから!」
「言い訳を聞く気はないわよ。――そもそも、仮にもダークマターと呼ばれている存在(もの)をたったの二人で抑えよう、なんて発想自体がムチャなのよ」
「うわっ! まさかの作戦全否定!?」
「実際、『闇を抱く存在(ダークマター)の欠片』にしてはムチャクチャしぶといし」
「まあねぇ。――ねえ鈴音さん、まだかな?」

 私はそう言われたとき、この作戦のある問題点に気づいた。気づいてしまった。
 いくら私が霊力を削いでも、それだけでは悪霊を引き剥がすことが出来ない、という最大の問題点に。
 おそるおそるそれを言う私。もちろん精神集中は切らさないようにしながら。

「あの……、いまのままじゃ悪霊を引き剥がすのは不可能なんですけど……」
「ええっ!?」
「なんですって!?」
「鈴音さん、どういうこと?」

 同時にこちらを向くニーナさんとシルフィードさん。
 そして説明しやすいように促してくれるユウさん。

「えっと、つまりね。いまの状況だとダークマターは割と自由に動き回っているから、引き剥がそうにも悪霊の本体を完全には捉えられないの。霊力を削ぐだけなら悪霊のどの部分に干渉しててもいいけど、引き剥がすとなるとダークマターと悪霊の結合部分――つながっているところに干渉しないと不可能、というか……。あ、本来なら引き剥がしやすいように最初からその部分に干渉するし、そのためにとり憑かれた人を拘束しておく――」
「要するにどうすれば引き剥がせるんだ? 鈴音」

 また蛍に説明をさえぎられてしまった。

「え……、えっとね。要は数秒間でいいからダークマターの動きを完全に止めてくれればいいんだけど……」
「いくらなんでも二人でそれは出来ないわよ。相手は仮にもダークマターなんだから。もう少し人手があれば順番に攻撃して動きを止めるってテが使えなくもないけど」
「ですよね……」

 シルフィードさんのもっともな言葉に、私は思わずうつむいてしまう。
 と、そこで蛍が一歩前に出た。

「僕がやるよ。僕ならアイツにダメージを与えることもできる」

 確かにそれはそのとおりだ。蛍は《顔剥ぎ》を倒したとき、『ボウガンの矢にワイヤーをつけて遠距離から攻撃する』という戦法をあみ出した――らしい。そのとき私は気を失っていたから、その瞬間をしっかり見たわけではないのだけれど。
 まあ、その戦法をとれば蛍は充分にダークマターの動きを止めることができるだろう。
 でも、私は蛍の腕をつかんで行かせないようにした。

「駄目よ! 蛍! あなたは既に一度武器を創って消耗してる! 威力が下がってるだろうことは、足止めのための攻撃なんだからまだいいとしても、あなたが霊力を過剰に使用した場合どうなるか、蛍はもう知っているでしょ!?」
「…………」

 蛍は私が強い口調で言った言葉に一瞬表情を強張らせ、ついで悔しそうに唇をかむ。
 いままでほとんど戦いに参加していなかったのに、いま彼が『やる』と言ったのは、私がダークマターの攻撃でやられそうになったからだろう。おそらく、ではなく、自惚れでもなく、私はそう思った。――いや、思った、というのは違うかな。『思った』じゃなくて、私は彼がそう考えたのを――そう考える人間であることを知っていた。
 《顔剥ぎ》との戦いのとき、私が気絶したあと蛍は『見たことないくらいに怒った』そうだから。あ、これは私が目を覚ましてからユウさんから聞いたんだけど。
 ――そう。彼はきっと私だから『見たことないくらいに怒った』というわけではないのだろう。あのとき他の誰がやられても、彼はおそらくそうなったはずだ。だって、あのときその場にいたのは誰もが蛍にとって『大切な人』だったのだろうから。そして蛍はその『大切な人』を、例え自分の命を捨てても護りたいと思う人間だろうから。
 だから、おそらく蛍は霊力の過剰使用によるリスクのこともちゃんと頭にあって、それでもなおダークマターを放っておけずに、足止め役を買って出ると言ったのだろう。
 しかし、それを私は黙って見過ごすわけにはいかなかった。だって、黙って見過ごすなんて出来るわけないじゃない。ことは蛍の命そのものに関わるんだから。
 もっとも、もうここに戦力になる人間なんていないことも、また、事実だった。ユウさんは(ニーナさんが言うには)ほとんど魔法力が残ってないらしいし、仮に残っていてもユウさん自身は魔法を使うことは出来ない。真儀瑠先輩も真儀瑠先輩で、ダークマターの姿は見えるらしいけど、有効な攻撃手段なんてなにひとつ持ってない。私は私で動くわけにはいかないし。
 けど、だからといって唯一攻撃手段を持っている蛍に頼むのはイヤだった。霊力をまったく使っていない状態の蛍にならまだしも、既に霊力を消費している彼に足止めをしてもらうというのは、私には絶対に選べない選択肢だ。というか、蛍は私を護って霊力を消費したのだから、私はその選択肢を選んではいけない。
 ――でも、他にどんな選択肢があるというの……?
 そんな考えが頭をかすめ、私にはやっぱりどうすることもできない、と半ば諦めかけたときだった。
 夕日も沈んで夜の闇に満たされていたその空間が、縦に長い長方形の光を放つ!
 これはまさか――『刻の扉』!?
 そしてそこから現れたのは、つい数時間前に自分の世界に帰ったはずの少年だった――。


○マルツ・デラードサイド

 僕が周囲を見回すと、その場の全員が僕に注目していた。
 まあ、それはそうだろう。もう二度と会えないと思って別れたら、その数時間後にまたこの世界にやってきたのだから。……ああ、バツが悪いったらありゃしない……。
 ケイたちの表情はどれも複雑なものだった。僕が推測するに、驚きが二割、納得できないという気持ちが八割、といったところか。
 あ、見たことない顔が二人分増えてるな。全身が闇色のヤツと緑色のロングヘアーの女性。
 ふむ……。別に外見で判断するつもりはないけど、おそらくあの闇色のヤツが『闇を抱く存在(ダークマター)』だろう。少なくとも女性のほうは悪役っぽい感じはしない。――うん。美人は悪人じゃあない。たぶん。……って、思いっきり外見で判断してるな、僕。
 それはそれとして、あの女性は一体誰なんだ? この世界にあって、なお強力な魔力を感じるけれど……。

「マ、マルツ……?」

 硬直していたっぽいケイが声をかけてきた。ああ、やっぱり納得できない感がバリバリ感じられる声音だ……。

「マルツさん……、どうして……?」

 こちらは鈴音さん。声音はやっぱりケイのものとそう大きく変わらない。
 ……ああもうああもう! こうなることは予想ついてたんだけどなぁ! やっぱりこの空気はいたたまれない気分になるぞ!
 まあ、あの『お別れ』のあとに『数時間ぶりの』再会をしたんだから、定番どおりに『感動の再会』になるわけがないんだけどさぁ……。
 とりあえず僕はみんなに声をかけることにする。そうしなきゃ事態が進まない気がしたから。

「お久しぶり、というか、数時間ぶりだね、ケイ、ユウ、鈴音さん、真儀瑠先輩、あとニーナさんも。――ええっと……、助けにきたよ、なんて言ってみちゃったりなんかしちゃったりなんかしてー……」

 うーん、駄目だ。なんか、まだみんなの硬直が解けてない。あ、ダークマターと思われるヤツと戦っているニーナさんと緑色の髪の女性は除いて、だけど。
 気にせずに僕は僕の訊きたいことをぶつけるとしよう。うん。質問してるあいだに空気もまた緊迫したものになってくるさ。……きっと。

「ところで、あの闇色の身体のヤツがダークマター?」
「え? あ、ああ……」

 うーん……。どうも反応鈍いなぁ、ケイ。

「じゃあ、あの女の人って誰? 見たところ敵ではないようだけど、すごく強力な魔力を感じるし、本当にこの世界の人間なの? あの人」

 僕がそう口にした途端、辺りの空気が変わった。――悪いほうに。
 なんというか、こう、すっかりしらけたような空気になったのだ。なぜかケイたち四人ともが僕に呆れたような視線を向けているし。

「えっと……、なに? 僕、なんか変なこと言った……?」

 それに返されるのは四人の嘆息。
 おいおい、そこまで詳しく状況を認識せずにここに来たんだから、そんな反応しなくてもいいだろうに。
 なおも呆れたように首を横に振りつつ、ようやくケイが説明してくれた。その段階になって思ったのだけれど、説明してくれるのが鈴音さんじゃなくてよかった。本当によかった。

「お前、あの女性――シルフィードのこと知らないのか? お前の世界の人間――じゃなかった、魔族らしいんだけど」

 あ、僕の世界の人だったのか。どうりで強力な魔力を感じると……って、

「ま……、魔族!? それもシルフィードだって!? なんだってそんな高位の魔族がダークマターと戦ってるのさ! いやそれよりも! なんでケイたち、魔風神官(プリースト)が目の前にいるのにそんなのほほんとしていられるんだよ!」
「だって、別に敵ってわけじゃないし。それよりも魔風神官(プリースト)ってなんだ?」
「ああ、それはシルフィードの二つ名だよ。――って、いやいやいやいや! そんなことはどうでもよくって!」
「いや、僕たちからしてみれば割とどうでもよくなくって。――まあ、それはそれとしてさ。ニーナと会ったときにも感じたんだけど、お前ちょっと界王(ワイズマン)とか魔族とかに対して恐怖心抱きすぎなんじゃないか?」
「僕が普通なんだよ! いやまあ、ニーナさんに対してはもう大して怖いとか思わないけど。でも魔風神官(プリースト)は高位魔族なんだよ!? 魔風王(ダーク・ウインド)っていう魔族の直属の部下なんだよ!? いま存在している魔族の中では、え〜と……、七番目に強いんだよ!? もちろん上から数えて、だよ!?」
「七番目って……割と下なんじゃ……?」
「分かってない! 分かってないよ、ケイは! いい? 魔族間の力関係っていうのはね――」

 と、そこで鈴音さんが割って入ってきた。

「あの〜、そろそろ干渉し続けるのもキツくなってきたんだけど……。マルツさん、助けにきたって言ってましたよね? 確か。それなら早くニーナさんたちに協力してダークマターの動きを止めてほしいんですけど……」
「え? ニーナさんたちにってことは……魔風神官(プリースト)とも協力するの!?」
「ええ。三人で数秒間足止めしてください。その間に私が――」
「イヤだよ! 魔風神官(プリースト)と協力するなんて! いつ微笑みながら横からグッサリやってくるか……」
「そんなことされませんって! さっきからずっと協力してくれてるんですから!」
「鈴音さん! これは僕の師匠たちが前に言っていたことだけど、あいつは邪気の無い笑みを浮かべながらあっさり人の首筋を掻き切るタイプのヤツなんだよ!?」
「シルフィードさんがこの状況でそんなことをする理由がないでしょう! いいから早くニーナさんたちに加わってください! 私の集中力もいつまでもつか分からないし、この中ではマルツさんしか魔法を使える人はいないんだから!」

 鈴音さんの剣幕に僕は不覚にもビクッとしてしまった。
 ……ああ、女性ってたまに怖いな……。下手すると高位魔族よりも怖いな……。魔風神官(プリースト)なんて女性で高位魔族なんだから恐ろしさはもう底知れないよ……。
 そんなことを思っている僕に、なおも鈴音さんが言ってくる。

「ダークマターの動きを数秒間止めてくれれば、私があれの『力』のほとんどである悪霊を引き剥がしてみせますから! だから早く!」
「わっ、分かりましたぁ〜!」

 悪霊を引き剥がすとか意味のよく分からない部分はあったものの、とりあえずダークマターの動きを数秒間止めればいいらしい。そう理解し、僕はニーナさんたちのところまで一目散に駆けていった。

「それでニーナさん、どうやります?」

 僕はニーナさんのそばまで来てからそう訊いた。魔風神官(プリースト)には絶対訊かない。だって、怖いし。

「そうだね〜。とりあえず時間差をつけて順番に呪文を放つってことで」
「了解です」

 言って僕は呪文を唱え始める。他の二人は呪文の詠唱をせずとも術を放てるが、人間という器に縛られている僕には、それは到底出来ない芸当だ。
 まず魔風神官(プリースト)が両の掌をダークマターに向けた。

「じゃあ一番手。――はっ!」

 その掌からは風の塊が放たれる。風である以上僕には当然見えないのだけれど、生じる風圧を感じ取ることでそれが放たれたことは分かった。
 これはおそらく、精神や物体に接触すると破裂する風の塊を放つ術、<魔風破弾撃(シルフェ・ブリッド)>だろう。
 <魔風破弾撃(シルフェ・ブリッド)>は彼女の主である魔風王(ダーク・ウインド)シルフェスの力を借りて放つ術だから、魔風神官(プリースト)なら呪文の詠唱はおろか、『呪文の名』を口にする必要もなく放てるに違いない。だって、それって結局、人間でいうところのパンチやキックと同じだから。実際、人間がそういったことをするときに『パンチ!』とか言わなくてもまったく問題ないし。……まあ、言う人だっているだろうけど。
 ともあれ、魔風神官(プリースト)の放った術はダークマターの進行方向の地面をうがった。なかなかハデな音をさせて地面が砕ける。
 足止めにはなってるんだろうけど、あとあと修理する人は大変だろうなぁ……。ああ、そういえばファルカスさんの破壊した街道はいつ直るんだろう……。あそこの管理はカノン・シティの魔道学会がやってるし、そこの副会長である父さんも関わることになるんだろうなぁ……。そうでなくても放ってはおけないだろうけど――。

『光明球(ライトニング)っ!」
「ぐおっ!?」

 ダークマターの目の前に煌々(こうこう)と輝く魔法の明かりを放つニーナさん。
 夜の闇に慣れているダークマターの目には効果絶大だったようだ。おそらく目を灼(や)かれて視界にはなにも捉えられなくなったことだろう。
 しかし――。

『しょぼっ!』

 期せずして僕と魔風神官(プリースト)の声がハモった。
 ……って、しまった! ニーナさんにツッコんだせいで、つい呪文の詠唱を中断しちゃった! 急いで呪文を唱えなおさないと……。と、待てよ。いま唱えてたものよりこっちのほうが……。
 まあ、それはともかく……、しょぼいだろ、これ。
 <光明球(ライトニング)>には殺傷能力がまったくない。ただ光り輝く光球を放つだけの術だ。
 そしてこの術はこの状況では確かに有効だろう。
 それでも、界王(ワイズマン)が使う術としては、なんだか相応しくないような気がする、というかなんというか……。
 僕たちの発した言葉を聞きとがめてか、ニーナさんがわめく。

「しょうがないでしょ! 魔法力が残り少ないんだから! それにしょぼくなんかないよ! もっとも効率的な方法だよ! ちょっと! シルフィードはともかく、なんでマルツくんまでなにも返してくれないのさ!」

 いや、僕は急いで呪文を唱え直しているからニーナさんの言葉に返せないだけなんだけど……。
 さてさて、この状況で効果的な術はというと、地の精霊の力を借りて地面を蛇の如くうねらせ、相手の動きを封じる術――<地蛇意操(アース・サラウンド)>が挙げられる。でも僕はこの術を使えないし、仮に使えたとしても使おうとは思わない。相手が『闇を抱く存在(ダークマター)』――精神生命体である以上、どれだけ地面をうねらせて動きを封じようとしても、実体化を解いて無効化する、というテを使われる可能性があるからだ。無効化される可能性が高いのにそれを使うほど僕は無能じゃない。
 なのでここで使う呪文は――。

「不均衡音波(クラッシュ・ノイズ)!」

 これにした。
 ――<不均衡音波(クラッシュ・ノイズ)>。
 相手の神経をマヒさせる音波を放つ精神魔術――ちなみに黒魔術――だ。これをモロにくらえば一定時間は思うとおりに動けなくなる。ちょうどいまダークマターがそうなっているように。
 もっともこの術は、かなり風の精霊魔術に近いものがあり、それだけに耳らしきものが見当たらないダークマターに効くかどうか少しばかり不安があったのだけれど、どうやら問題なく効いたらしい。まあ、目があるから<光明球(ライトニング)>の光を眩しく感じたんだから、これも多分効くだろうと思ってやったんだけれど。
 実は最初は<黒妖崩滅波(ブラム・ストラッシュ)>を撃とうとしたんだけれど、ニーナさんにツッコんで詠唱を中断したときに使う呪文を変えてみた。それがこれなのだ。
 しかし、ここは僕の住んでいた世界ではない。ついさっきまで蒼き惑星(ラズライト)で戦っていたものだから、その感覚で<不均衡音波(クラッシュ・ノイズ)>を使ったのだけれど、はたしていつまでその効果が持続するか――。
 そんな心配が脳裏をよぎったそのときだった。

「――ハッ!」

 鈴音さんの気合いを入れる声。続いてバリッと乾いた音がする。
 それと同時にダークマターのその人型の輪郭は、曖昧なものへとなっていった。

「――なっ……!?」

 驚愕の声をあげるダークマターから黒いなにかが飛び出てくる。……あれは、一体……?

「悪霊を引き剥がしたわよ! あとはもう一度ダークマターが取り込む前にあの悪霊を除霊しないと――」

 鈴音さんが言い終えるよりも早く、

「精神裂槍(ホーリー・ランス)っ!」

 ニーナさんの放った輝く槍が悪霊とかいうのを直撃、消滅させる。

「い……、いま、なにを……?」

 目を丸くして尋ねる鈴音さん。ニーナさんは鈴音さんの近くまで空間を渡って移動すると、それに答えた。

「ボクの魔法力を使い切っちゃった感じだけどね。あの悪霊を倒しておいた」
「いや、だからどうやって……? 霊をどうにかするには精神干渉で説得するか、不快感を与えるくらいしかできないはずで、あんな風に『倒す』なんてこと――」
「あれも一種の精神干渉だよ。鈴音さんのやった『不快感を与える』っていうのに近いかな。『霊の精神を引き裂く』という干渉をしたんだよ」
「それって……、成仏させたんじゃなくて……」
「そう。消滅――世界そのものから消し去ったの。もちろん成仏させるための『浄化』の術も存在するけど、あれは魔法力を多く使うからねぇ。今回は使えなかったんだ。それにこれが一番手っ取り早い倒し方だしね」

 なぜか絶句している鈴音さん。しばしして彼女の口にした言葉には、驚くべきことに少し非難が込もっていた。

「ニーナさん。悪霊だって成仏すれば転生(てんせい)して――」

 ニーナさんはうんざりした表情になって鈴音さんのセリフをさえぎる。

「それよりも、ダークマターをなんとかするほうが先じゃない? まだ滅びたわけじゃないんだし……」

 見るとダークマターは確かにまだ滅びていなかった。明確な殺意が、おそらくは蛍に向けて発せられている。

「まだだ……。まだ我は滅びん……。我はまだ在り続ける……。世界を滅ぼすその瞬間(とき)まで在り続ける……」

 そこに冷淡な声が浴びせられた。ケイの声だった。

「――いい加減にしろよ」

 その表情を見る。明らかに怒っている表情だった。なにか、大切な物を傷つけられそうになった者の――なにかを護りきれなかった自分に対する怒りを覚えている者の表情だった。

「滅びたい、死にたいっていうなら止めないさ。それを止める権利なんて誰も持ってない。生きたい、在り続けたいと思うのも勝手だ。それは正常な思考だ。でもな――」
「黙れ! 小僧!」

 ――ちょっ……! 本当に黙ったほうがいいって! ケイ!

「誰かを傷つけたいから生きたいなんてのは、死にたいっていうのよりもっと悪い。はっきり言って最低だ!」
「黙れと言っている!」

 残り少ないと思われる魔法力を消費して黒い波動を放つダークマター。

「蛍!」

 鈴音さんの悲痛な声が夜の街にこだまする。
 しかし僕たちが目を背けるその前に、波動はケイの身体を直撃する直前でわずかに逸れた。

「な……?」

 思わず、といった感じで声を洩らすダークマター。波動はケイのアパートのほうに飛んでいき、壁に当たるとなにを破壊するでもなく霧散した。
 勢いで、なのか、一息にダークマターと距離を詰めるケイ。そして、僕に向かって叫ぶ。

「マルツ! こっちに<呪霊撃滅波(ソウル・ブラスター)>を撃ってくれ!」
「は!? ケイ、一体なにを考えて――」
「いいから、早く!」

 僕はその声に急かされて早口で呪文を唱えた。
 再び黒い波動を放とうとするダークマター。
 それをケイはまばたきもせずに、冷ややかな瞳で見るともなしに眺めている。
 僕の呪文が完成した。

「呪霊撃滅波(ソウル・ブラスター)っ!」

 ダークマターのほうに向かって放つ!
 けど『霊王(ソウル・マスター)』の力を借りたあの術はケイの能力効果範囲に入った途端、物質化してしまう。ケイはそれを知っているはずだ。
 一体――なにをするつもりなんだ? ケイ?


○神無鈴音サイド

 マルツさんの放った<呪霊撃滅波(ソウル・ブラスター)>が一本の細長い棒と化した。蛍の『霊体物質化能力』の効果範囲に入って。
 そしてその蒼白く輝く棒を顔をしかめつつ拾う蛍。

「なにしてるんだよ! ケイ! そんなのに直接触れたら、死ぬ――とまではいかないまでも、精神力をごっそり奪われるぞ! いや、それだけじゃない! 物質化してるんだから、肉体にもダメージがあるはずだ! 早く離せ!」

 しかし蛍はマルツさんの叫びにも似た声を無視して、まるで剣を構えるかのように両手で細長い棒を――物質化した<呪霊撃滅波(ソウル・ブラスター)>を握った。
 彼の表情が苦しそうに歪む。
 早く手放したほうがいいと思われるが、私は蛍の考えをおぼろげながらも理解し始めていた。
 いまの蛍は多少なりとも霊力を消費しているため、普通に武器を創ったところで、それの持つ威力はダークマターに致命傷を与えられるほどのものにはならない。
 しかしダークマターをこのまま放っておくわけにはいかないし、なによりもそれは蛍自身がしたくないのだろう。
 かといって彼の場合、霊力を過剰に使用すれば植物人間状態になりかねない。
 だから、蛍は考えたのだろう。霊力を過剰使用せずに済む方法を。

「死ね! 理力を持ちし者!」

 分厚いガラス越しに見ているときのように、歪んだ姿の黒い影が自分の身体と同色の波動を蛍に放つ。
 しかしそれはまたも蛍の身体に当たる直前で不自然に軌道を変えた。

「また!?」
「そんなことが……」

 驚きの声をあげるニーナさんとシルフィードさん。
 私も驚いてはいた。別に蛍があの棒でなにかをしたようには見えなかったから。

「死ね、死ねってうるさいな……。誰にだって死ぬ権利こそあっても、殺す権利はないだろ……」

 マルツさんが言っていたように、あの棒に精神力を奪われているのだろうか。蛍の声には少し力がなかった。
 けれど蛍は手にした棒を振りかぶり――、

「まあ、よくいるけどさ……。そこを誤解してるヤツは……。――よっ!」

 ダークマターに向けて叩きつけた!

「――ぐあぁぁぁぁっ!?」

 響き渡るダークマターの苦鳴。いや、絶叫。
 残っていた蛍の霊力だけでは大してダメージは与えられなかったに違いない。けれど、蛍はその残った霊力だけでダークマターを倒せるだけの威力を出す方法を考えだした。
 おそらくそれは、あの棒に自分の霊力を込める、というものなのだろう。そうすれば武器の形を創るための霊力を、攻撃するためのエネルギーにまわせ、武器の姿を形作るときに使用していた霊力のぶんだけ、ダークマターに与えるダメージを増やすことができる。
 しかもそれだけじゃない。これは彼自身もあとから気づいたことかもしれないけど、蛍が霊力を込めるのに使用しているあの棒は物質化した<呪霊撃滅波(ソウル・ブラスター)>だ。よってダークマターは、必然的に蛍が棒に込めた霊力によるダメージと<呪霊撃滅波(ソウル・ブラスター)>が直撃したぶんのダメージを同時に受けることになる。これを受けてなんともないということは、まず、ないだろう。『力』のほとんどである悪霊を私が引き剥がしているんだから、なおさら。

「こんなことが……?」

 自分の身に起きたことがまだ信じられないようにそう呟くと、ダークマターのその身体は、ざあっ、という音とともに崩れ去った。
 それが――『闇を抱く存在(ダークマター)の欠片』の最期だった――のだろう。多分。


○同時刻 アメリカ某所

 スピカはシリウスの部屋の前まで来ると、少し乱暴にそのドアをノックした。

「どうぞ〜」

 部屋の中から聞こえてくるのは、どこか気の抜けた声。

「お爺様に念を押されましたので、報告に参りました」

 ドアを開けながらのスピカの声はシリウスのものと違って、どこか厳しい。例え仕事のときであっても適度に気を抜いていたほうが、実は成功を収めやすいのだが、彼女はまだそれを知らない。

「スピカか。また怒ったような顔をして。年中それじゃ疲れないか?」

 ベッドに寝転がっていた身を起こしつつ、青年がスピカのほうに顔を向けた。
 腰くらいまである金髪は、スピカ同様かるくウェーブがかかっている。
 瞳の色もやはり彼女と同じ鮮やかな青。
 スピカの兄、シリウス・フィッツマイヤー。21歳の好青年である。
 もっとも、お気楽を絵に描いたような緩んだ笑みをその顔に貼りつけていなければ、だが。
 そのお気楽な表情がスピカはどうも気に障って仕方がなかった。
 この兄は毎度この調子だというのに祖父、レグルスから厚い信頼を得ているのだ。
 むしろシリウスのその態度こそがレグルスの信頼を得ている最大の理由なのだと知らないスピカの声には、自然と険が込もる。

「特に疲れは感じませんわ。わたくしが疲れているように見えるのなら、お兄様の視力に問題があるのでは?」

 早くもケンカごしである。
 しかし動じることなくシリウスはそれに応じた。スピカのその態度はいつものことだからである。この兄妹も昔は仲が良かったのだが、祖父に信頼されているシリウスへの劣等感やその他もろもろの理由から、スピカはいつの間にやら兄に冷たくあたるようになっていた。

「俺の視力に問題が、か。それは盲点だったな。けどそれで俺が困ることも、いまのところ特にないしな。放っておいてもいいか。――で、報告ってなんだ? 日本の首都辺りで起きている四つの『歪み』のことか?――あ、いま三つに減ったな」

 既に『歪み』のことは察知していたらしい。それもレグルスもスピカも察知しなかったそれの数まで、おそらくは正確に。
 シリウスはフィッツマイヤー家の中でもトップクラスの霊能力者だった。

「……そのことですわ。その件、わたくしに解決が命じられましたので、一応ご報告に」
「おいおい、じーさんがよく許したな。……本当にお前ひとりで大丈夫か?」

 早く会話を終わらせたいので手短に告げたスピカに、シリウスはそう尋ねる。もちろんその言葉は本当にスピカの身を案じてのものだったのだが、シリウスに劣等感を抱いているスピカには単にバカにされたようにしか感じなかった。……あるいは、案じるシリウスの声に真剣みが皆無だったのも、彼女がそう感じた理由のひとつかも知れない。

「問題ありません! それでは!」

 言ってバタンとドアを閉めるスピカ。

「そんな勢いで閉めたらドア壊れるだろうに……。――しっかし、本当に大丈夫かよ……」

 シリウスは唐突に表情を引き締めると、今度は真剣な口調でそう呟いた。普段からこうならスピカの対応も、もう少し違うものになっていることだろう。
 彼はひとつ嘆息すると、再びベッドに寝転がる。

「まあ、なかなか帰って来ないようだったら俺も日本に飛ぶとするかね」

 軽い口調で言って、シリウスはより表情を引き締めたのだった――。


○式見蛍サイド

 手にしていた蒼白い棒を能力範囲外に放り捨てる。するとそれは物質化を解かれて近くの壁に直進し、直撃。一瞬にして消滅した。
 物質化させた<呪霊撃滅波(ソウル・ブラスター)>に僕の霊力を注ぎ込み、ダークマターを思いっきりぶっ叩く――。
 やるまでは多少不安があったものの、やってみればそれはあっという間のことだった。
 ただひとつ、まだ不安があるとすれば――。

「……空間を渡って逃げたんじゃないだろうな、ダークマター……」

 それに答える声があった。数時間前に自分の世界に帰っていったハズだったヤツの声。

「それは多分ないと思う。魔力が細切れになって消えていったから」

 そっちを見ると、ムスッとしているマルツと目が合った。なんか、『闇を抱く存在(ダークマター)』と対峙していたときよりもずっと怖い。

「それよりもケイ。両の手、見てみなよ」
「両手?」

 言われたとおりにして――後悔した。
 あまり詳しく表現したくはないのだけれど、両手がかなり控えめに言っても、ものすごいことになっていた。
 思わず血の気が引く。同時に、さっきまで大して痛くなかった両手にいまになって激痛が走った。まあ、さっきまであまり痛くなかったのは、感情が昂(たかぶ)っていたからなのだろうけれど。
「っ〜〜〜〜!!」

 声にならない悲鳴をあげる僕。
 そんな僕の両手に手をかざしてマルツがなにやらブツブツと呟いた。
 少しの間があって。

「復活術(リスト・レーション)」

 僕の両手にじんわりと温かい光が当てられる。その光をボンヤリと眺めていると、光が当たっているところの痛みが少しずつ薄れていくのに気づいた。これって、ひょっとして……。

「RPGでよくある『回復魔法』ってやつか?」
「そうだよ。精神魔術系統の白魔術――上級回復呪文の<復活術(リスト・レーション)>。……本当は神界術に<神の祝福(ラズラ・ヒール)>っていう高位の回復呪文があるんだけれど、あいにく僕には使えなくって……。まあ、そんなわけで僕にはこれが精一杯なんだ。悪いな」
「いや、悪いなんて……。助かるよ。本当」

 それは僕の本心だった。大体、マルツの言うことを聞かずにあの棒を使い続ける、なんていう自業自得なことをやっておいて、それで負った大ケガをマルツに治してもらってるんだ。それでマルツに文句なんて言ったら冗談抜きでバチがあたるだろう。
 それからしばし他愛のない会話をしながら、僕の両手が完治するまでマルツは回復呪文をかけ続けてくれた。……ふむ。RPGとかだと一瞬で治ってるように感じるけど、やっぱり本当の回復魔法っていうのはそういうものではないんだな。きっと鈴音が話をしつつも集中を切らさずにいたように、マルツもまた、僕としゃべりながらも精神集中を切らさないよう絶えず気を張っているのだろう。

「ほい。これで完治」

 マルツは両の掌をパンパンと打ち鳴らした。すると僕が完治するのを待っていたかのようにシルフィードが口を開いた。いや、間違いなく待っていたのだろう。

「さて、じゃあ私はそろそろお暇(いとま)させてもらうわ。じゃあね、ケイ。また会うときまで」

 言って彼女は僕にウインクを飛ばしてきた。

「シルフィードさんっ!」

 鈴音がなぜか怒ったような声を出す。シルフィードはそれを意に介した風もなく、僕たちに背を向けて歩きだした。
 そのまま歩き去るかと思いきや、数歩歩いたところでそのうしろ姿は夜の闇にスッと溶け消える。
 どうやら、間違いなく終わったらしい。シルフィードの『また会うときまで』が気にならないと言えば嘘になるけれど。

「……まだ不安は残るけど、とりあえず魔風神官(プリースト)は安全と見ていいのかな……? まあ、ならもう帰っても平気か」

 そんなことを呟くマルツ。……って、帰る……?

「お前、もう自分の世界に帰るのか?」

 確かにそう言っていたのに、思わず問う。

「え? うん。問題はあらかた片付いたようだし、僕自身の心も納得したし。師匠からも言われたからね。納得できるかたちで帰って来いって。――あ、そういえば師匠、結局来なかったな。まあ、僕たちだけで割とあっさり倒せちゃったもんな。――じゃあね、ケイ。元気で」

 僕はその言葉に、しかし寂しさなんて微塵も感じなかった。それよりも、困った感情のほうが湧いてくる。だって、さあ……。
 僕の戸惑いをどういう風に受け取ったのか、マルツは一度僕を安心させるように大きくうなずくと、ニーナのほうに向いた。

「ニーナさん。『刻の扉』をお願いします。師匠たちも待ってるでしょうから」

 その言葉に辺りの空気が凍りつく。ニーナはニーナでダラダラと汗を流し始めた。

「ええっとね……。創れないんだよ、『刻の扉』。魔法力が足りなくて……」
「ええっ!? やっと現状に納得できたのに!」
「ええと……、ほら、まあ、その……。良かったじゃん。ケイくんたちとまだ別れずにすんで」
「それはそうかもしれませんけど、なんか複雑!」

 なんだか不毛な会話になりそうだったので、僕が口を挟む。

「まあ、いいじゃないか。お前はともかく、ニーナはこの世界の歪みをなんとかするために来たんだろ? ならそれを手伝ってやれよ、マルツ。『刻の扉』だってそのうちまた創れるようになるらしいし」
「確かにそういう大義名分があるのは嬉しいけど……。で、ニーナさん。また『刻の扉』を創れるようになるまでどれくらいかかります?」
「う〜ん……。1週間くらい、かな。――でも世界の歪みを引き起こしている張本人に言われるのは、正直、釈然としないなぁ……」

 僕にも自覚はあった。
 マルツが僕のほうへと視線を移す。

「じゃあ、また帰れるようになるまで同居してていいかな?」
「ああ、もちろん」

 即答。断る理由なんてなかった。どうやら僕はコイツのことを『大切な人』と思い始めているようだから。

「ボクはこの世界の大気と同化して待機することにするよ」

 言ったニーナのほうを見ると、なんだか『上手いことを言った』とでも言いたげな表情をしていた。おそらくは『大気』と『待機』をかけたのだろう。なぜかは分からないけれど、吹く風が急に寒くなったような気がした。まだ夏になったかならないか、という季節だというのに。

「……ええと、この世界の大気、すごく溶け込みやすいんだよね。なぜかは分からないけど」

 弁解するようにそんなことを言うニーナ。誰も訊いてないんだけどな、そんなこと。
 とうとういたたまれなくなったのか、

「……じゃあ、またねっ!」

 それだけ残してニーナの姿が掻き消える。
 僕たちは視線を交わしあって今回のことが終わったことを実感すると、五人揃って大きく嘆息した。
 先輩が嘆息するところを見るのは妙に新鮮だな、とか思いながら――。

○???サイド

 この世界の大気に含まれている魔力が少しばかり濃度を増した。
 『闇を抱く存在(ダークマター)の欠片』が滅びるのと時を同じくして。
 二つの世界の境界がさらに曖昧になり、魔力の濃度の濃い『蒼き惑星(ラズライト)』の大気が地球の大気に混じり始めたのだろう。このまま放っておけば、あるいは世界そのものが混じりあい、ひとつになってしまうのかもしれない。
 しかし、一体なにが引き金となったのだろう。
 ダークマターが滅びたことだろうか。
 それとも、式見蛍の持つ能力によって――?
 ――そう。式見蛍の能力だ。あの能力(ちから)――理力(りりょく)がなんらかの原因にはなっているのだろう。
 しかし、彼の持つ理力と世界の歪みにどんな関連性が――?
 ……いや、それを私が考える必要はないだろう。それは『聖戦士』たちや界王(ワイズマン)のすることだ。
 そう。私が考えるべきは、彼の価値のことだ。
 今回の事件で、彼は私の想像していた以上の『力』を見せてくれた。あれなら私の助けがなくても、ダークマターを倒せていたことだろう。
 ――私は一度、放棄しようとした。彼の価値を見極めることを。
 思ってしまった。彼を失いたくない、と。――しかし、あれほどの『力』を見せてくれたのなら、もう躊躇(ちゅうちょ)することはない。彼らは間違いなく私を楽しませてくれることだろう。さて――。
 起こすとしよう。彼らのための事件を。
 与えるとしよう。彼らの活躍の場を。
 その結果、彼らがどうなるか、世界がどうなるか、そして私がどうなるか、まったく予想はつかないけれど。
 あるいは、あのとき界王(ワイズマン)が言ったように、私はただ自分に言い訳をして自身の『救い』にちょっかいを出して、関わりたがっているだけなのかもしれないけれど。
 ――決断は、もう終えた。
 さあ、この私――魔風神官(プリースト)シルフィード、暗躍のときだ――。


○神無鈴音サイド

 あれから蛍のアパートの前で蛍たちと別れ、私は真儀瑠先輩と二人で最寄りの駅へと向かい、電車に乗った。
 自分の家にほど近い駅で電車が止まると、先輩に「じゃあ」とだけ告げて、電車を降りて自宅を目指す。
 その少女と出会ったのはその帰路の途中だった。
 年の頃は私と同じ16歳くらいだろうか。
 背中に流されているまっすぐな黒髪に、不安げな色を宿した黒い瞳。
 身に纏(まと)うちょっと変わったデザインの白いワンピースが夜の闇に映えている。
 美少女、という表現がぴったりと当てはまる少女だった。
 声をかけてきたのはその少女のほうから。どこか、おどおどとした表情で。

「あの……、すみません。ここは、どこでしょうか……?」

 どうやら道に迷ったようだった。私は電車から降りた駅の名を挙げ、その付近だとつけ加える。
 しかし彼女はそれに困ったように首を傾げ、

「すみません……、聞き覚えがなくて……。あの、じゃあ……、あなたの名前は……?」

 変な質問だな、と思いはしたものの、

「私は神無鈴音って言うんだけど、あなたは?」

 本当に軽い気持ちで私は少女に名を訊き返した。しかし彼女はその質問に本格的に困った表情に――というか、泣き出しそうな表情になった。

「分からないんです。私は、誰なのか……」
「それって、もしかして……」

 私は思わず息を呑む。
 この少女は記憶喪失なのではないだろうか、と思いあたって。
 不安なのだろう。とうとう少女は泣き出してしまった。涙の滴が地面に落ちる。

「お、落ち着いて。とりあえず、私の家に……」

 私の言葉にうなずく彼女。私はそれを確認すると少女の手を引いて歩きだした。彼女はしゃくりあげながらではあったけれど、ちゃんとついてきてくれた。とりあえず、私の家で落ち着いて話を聞く必要があるだろう。放っておくという選択肢は、私の中には存在しなかった。
 歩きながら、ふと思う。
 記憶喪失の女の子を拾ってしまうなんて、まるで蛍みたいだな、と。でも、彼が同じ立場に立たされても、結局はこうするんだろうなぁ。
 なんとなく、蛍がユウさんと同居している理由が分かったような気がして、こんなときに不謹慎(ふきんしん)とは思いつつも、私は小さく笑った。



 ――『プロローグ 風のはじまる場所』―― 閉幕



――――作者のコメント(みんなで座談会)

作「どうも、ルーラーです。ようやく『マルツ・デラード編』こと『プロローグ 風のはじまる場所』の最終話となる第七話をここにお届けします。――いやー、色々と長かった」
ユ「本当に色々と長かったね。たった七話なのに書き終わるのに四ヶ月近くかかってるし、第四話から今回の話までは全部同じ日に起こったことだし、なによりも普通プロローグってもっと短いものだよ。なのにこのプロローグ、もしかして長編小説一冊分くらいの長さがあるんじゃない? こんな長いプロローグ、見たことないよぉ」
蛍「まあ、確かにな。プロローグなのにストーリーに一応の決着が着いてるし」
作「うん。第二話を書いていたときから考えていたラストに無事着地させることができて、とりあえずは一安心」
鈴「でもこれで終わりってわけじゃないのよね? 思いっきり続いてるし、回収されてない伏線もたくさんあるし」
作「その通り。『プロローグ 風のはじまる場所』こそ終わりましたが、この物語は『マテリアルゴースト〜いつまでもあなたのそばに〜』の『神無鈴音編』こと『第一章 自分の意味は(多分正式タイトルになると思います)』の第一話――つまりこのシリーズの第八話となる『聖なる侵入』に続きます。その前に陽慈の短編を書くことになると思いますけど」
蛍「これで一区切り、とは言えるもんな。一応。だから息抜きに短編をやるわけか」
鈴「あ、ひょっとして次から私のストーリーに入るから今回、私のサイドで終わってるの?」
作「そう。しかし次の話からようやく第一章に入るんだから、このシリーズの完結は一体いつになるのやら……」
ユ「思いついたこと次々と作品に入れるからそうなるんだよ」
作「ごもっともです。でも今回のダークマターを倒す方法は思いついたから、というより、過去の出来事が伏線になる形で蛍と鈴音、そしてマルツの連携で勝利できる方法を、と考えた末、ようやく出てきたものです」
蛍「伏線? ああ、第二話のコンビニで<呪霊撃滅波(ソウル・ブラスター)>が物質化したシーンのことか」
沙「とりあえず伏線と呼べなくもないか。まあ、大事なのは読んでくれた方が伏線だと認めてくれるかどうか、だが」
作「う〜ん、真儀瑠先輩はまた厳しいことを……」
沙「しかし、一話ごとに話――というか、行数が長くなっているのは正直、どうかと思うぞ?」
作「はい。それもごもっともです。次からはもっと戦闘シーンの長さを計算して、話そのものも長くなりすぎないよう区切って、読むのが面倒にならないくらいのものを目指します」
蛍「それにしても、オリジナルキャラが増えたよなー」
作「うん。マルツやニーナ、ニーネを筆頭に、ファルカス、サーラ、フィッツマイヤー家の人々、名前だけの登場ならミーティアとアスロック。それと九樹宮っていう一族。今回のラストに出てきた記憶喪失の少女も、だね」
蛍「多すぎじゃないか?」
作「大丈夫。どのキャラもちゃんと出るところが決まってるから。名前だけの登場で終わることはないと思う。多分。――ちなみに今回登場した記憶喪失の少女は『マテリアルゴースト〜いつまでもあなたのそばに〜』を完結させるために絶対必要なキャラだったりします。――あ、シルフィードのこと忘れてた」
マ「哀れ、『魔風神官(プリースト)』……。今回ようやく『一人称が『私』の???サイド』が彼女の心の内だと判明したのに……。ちなみに『一人称が『我』の???サイド』は『闇を抱く存在(ダークマター)の欠片』の独白なんだよな」
作「(こくこくとうなずきながら)そうそう。――あ、マルツ、来たのか」
マ「うわ、なに!? そのぞんざいな口調!?」
作「いや、キミの場合、僕の作ったオリジナルキャラだからね。冷たい対応しても何の問題もない」
マ「ひっ、酷い!」
作「それはともかく、ここもだいぶ大所帯になったなあ。僕も含めて六人も居るよ……」
マ「流された!!」
作「そうそう、シルフィードに関してはかなり初期設定とキャラが変わってしまいました」
蛍「そうなのか?」
作「そうなんだよ。初期設定では『風は自由の象徴だ』という僕の考えのもと、何の理由もなく蛍たちに迷惑をかけまくるキャラだったんだけど……」
沙「いまのシルフィードの行動にはちゃんと理由があるようだな」
作「そうなんですよ。心理を重んじて物語を書くとこうなるんですね〜。なんか、キャラの行動にちゃんと意味を持たせたくなるんですよ」
ユ「さて、じゃあそろそろ今回のサブタイトルの出典を!」
作「今回のサブタイトルは『ご愁傷様二ノ宮くん3』(富士見ファンタジア文庫)の其の四からです」
ユ「スパイラル関連のタイトルじゃないなんて珍しい!」
作「……コホン。意味は『シルフィードとの共闘が始まる』というものではなく、『闇を抱く存在(ダークマター)の欠片』が倒されたことと、シルフィードの暗躍が始まること、そしてなにより記憶喪失の少女が登場したことによって、ようやく『マテリアルゴースト〜いつまでもあなたのそばに〜』が本当の意味で始まる、というものです」
蛍「つまり、ここから先を書かない場合、プロローグのみを書いてそのまま放置、なんてことをやった人間になるわけか。ルーラーは」
作「うっ! 今回を含む七話分がプロローグだと言っている以上、否定はできない……。まあ、そうならないように頑張ります」
鈴「さて、ではこれからの見所は?」
作「とりあえず主役を蛍とマルツから、蛍と鈴音に変えるので、そこでしょうか。あと、フィッツマイヤー家の動きとシルフィードの動向。……まあ、全然見所にならない可能性や、別の部分が見所になる可能性もありますが」
蛍「ミもフタもないことをサラリと……。あの記憶喪失の少女は見所にならないのか?」
作「あ、なるかもしれない。それと忘れてたけど、サーラも見所になる可能性大だ」
蛍「忘れまくってるな! おい!」
作「う〜ん。ちゃんとプロットを書いて座談会に臨んでいるというのに、なんでこうも忘れるのか……」
蛍「またプロット作ってたのか!? もしかしてそのプロット、脈絡のない書き方してるんじゃないだろうな!」
作「うん。僕以外の人が見ても多分意味分からないと思う」
蛍「ちょっと見せてみろ。……え〜と、『風は自由の象徴』? 『一体いつ完結するのやら』? なんだこりゃ!」
作「ああ、それと第一章からはもう少しラブコメを意識して書いていきたいと思っています」
マ「思うだけなら自由、実際に書けないとは思うけど、とか思ってないか? 実は」
作「そこまでは思ってないけど、ほら、やっぱり個人の限界ってものはあるから」
蛍「そんなことより! そのラブコメこそが本当の見所になるんじゃないか? 普通!」
作「普通はそうかもしれないけど、そこはほら、僕ですから!(ナオミさん風に)」
蛍「あ、聞いた覚えあるぞ! その開き直りのセリフ!」
鈴「え? 私は聞いたことないけど?」
ユ「あのときは鈴音さん、いなかったもんね。(少し震えて)私はすまきに……」
マ「ああ、こんなに短編ネタ出して大丈夫かな……」
作「さて、それでは話が脱線してきたので、そろそろ終わるとしましょう。――みなさん、こんな稚拙な文で綴られているうえ、伏線の張り方やらプロットの立て方やらがなっていないお話を第七話まで読んでくださり、ありがとうございました。楽しんで頂けたのなら幸いです。また次の『マテリアルゴースト二次創作小説』でお会いできることを祈りつつ」
蛍「次の話って陽慈の短編だよな……。一体どんな話になるのやら……」
作「それは言わない約束だよ。――それでは(ぺこりと頭を下げる)」


公開:2006/08/18

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