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起こったかもしれないこと
著者:ルーラー

○神無鈴音サイド

「……ふぁ」

 私――神無鈴音は自室のベッドでうたた寝していた、ようだ。
 時計を見ると、もう午後8時。
 ……って、マズい! 宿題やってない!
 私は即座に意識を覚醒させると、飛びつくように机に向かった。
 と、そのとき。

「……さ〜ん……んね……鈴音さ〜ん!!」

 唐突に壁から女の人の顔が――ユウさんの顔がヌッと現れた。
 驚いてイスから転げ落ちそうになる私。
 一応私の名誉のために言っておくが、私は壁からユウさんの顔が唐突に現れたから驚いたのではない。そんなことでは霊能力者としてやっていけない。……いや、ホントに。
 私が驚いたのは、ユウさんがあまりにも切羽詰まった感じでやって来たからだ。

「鈴音さん! 大変! 大変! 大変!! とにかく大変なんだよ〜!!」

 大声で『大変』を連呼するユウさん。それから、

「いい!? 落ち着いて聞いてね! そそそそそ……それがね……!」
「ユ、ユウさん。とりあえずあなたこそ落ち着いて! 顔色が尋常じゃないわよ!」

 いま、ユウさんの顔は赤くなったり青くなったりを約1秒間隔で繰り返していた。これも形態変化の応用なんだろうけど、見ているこっちとしては目がチカチカして仕方がない。

「ほら、落ち着いて深呼吸、深呼吸」
「そ……そうだね。……すーはー、すーはー……」

 まあ、幽霊であるユウさんが深呼吸したところで大した意味はないとは思うけど……。
 やがてユウさんは顔色を元に戻し、しかし剣幕はさして変わらぬまま私のほうにズイっと身を乗り出してきた。

「……えっと、ユウさん、ホントに落ち着いた?」
「うん! でね、鈴音さん。私今日、とんでもない光景を目撃しちゃったの!」
「とんでもない光景?」
「そう。なんと……ケイが先輩さんとデ……デートしてたんだよぉ〜!」

 ――――。
 私の思考はしばしフリーズした。

「鈴音さん! ショックなのは分かるけど、しっかり!」

 気づくと私はユウさんに肩を揺さぶられていた。……あれ? 彼女は幽霊だから私には触れないはず……って、私、幽体離脱しちゃってる!!
 急いで身体に魂を戻し、呼吸を整える私。
 ああ、まさか幽体離脱するほどまでに動揺するなんて……。
 とりあえず私は気を取り直して、ユウさんに問う。

「見間違いとか、勘違いとかじゃないの? だって、まさかあの二人が……」
「見間違いでも勘違いでもないよ! 私、ちゃんと見たんだから!」

 そう言うとユウさんは、私のためにそのときのことをこと細かに語り始めたのだった。
 ああ、目まいが……。


○ユウの回想

 私はその日、街中をふよふよと散歩していた。
 本当は自分の足で歩きたくもあったからケイと散歩したかったんだけど、ケイはなんでも『今日は用事があるから』と朝早くから出かけて行ってしまっていた。
 私はこの段階で――いや、昨日先輩さんからと思われる電話がケイにかかってきた段階で二人の関係に気づくべきだったのだろう。なぜなら、昨日の夜、ケイは『電話、なんだったの?』と訊いた私に、ぎこちなく笑いながら『な、なんでもないよ』などと返してきたのだから。
 それに、思えばケイは今朝、どこかウキウキとしていたし、やたらと美少女であるこの私と出かけることを嫌がっていた。
 しかし素直な私はそれを不審に思うこともなく、ただ『行ってらっしゃい』とケイを見送ってしまったのだ。
 もちろん、私はケイの態度に不審を覚えることもなく、ただ散歩に出かけただけだったのだ。
 それなのにまさか、ケイと先輩さんが一緒にいる光景を目撃してしまうことになるとは。
 回想を続けるとしよう。


 ケイと先輩さんを見かけたのは、とある交差点の横断歩道前でだった。
 もちろん私は陰から様子を窺(うかが)おうなんて考えもしなかった。すぐに二人のところに(比喩抜きで)飛んでいこうとしたのだ。
 だが、そのときだった。
 なんと、ケイが――あのケイが先輩さんの手を唐突に握ったのだ。それだけならまだいい。いや、ちっともよくはないけど、それだけならケイが勝手にやったことだ。若さゆえの過ちで済んだことだろう。
 問題は、その後にあった。
 正直、あれは驚いた。まさか……まさかあの先輩が顔を赤らめてケイに寄りかかるとは……。
 さらに、だ。信号が青に変わった途端、ケイは先輩さんの手を強引に引いて、人ごみの向こうに走り去ってしまったのだ。チラリと見えたところでは、先輩さんも顔を赤らめたままうつむき加減で、ケイに引っ張られるまま走っていたように思う。
 私は二人がすっかり人ごみにまぎれてしまってから、ようやく我を取り戻したのだった。


 いや、まさかあんな衝撃的な現場を目撃することになろうとは、今朝の段階では想像もつかなかった。
 しかし、あんな衝撃的なシーンすらも、これから起こる大問題な会話に比べればちっぽけなものでしかなかったのだ。
 回想を続けよう(鈴音さんに急かされてるし)。


 私が空を飛べる利点を生かして二人を見つけたのは、それからしばらくが経ってのことだった。
 二人は家具店の前で立ち話を――正確に言うのなら、ウインドウショッピングをしていた。
 そして私の耳に、私にとっては――おそらく鈴音さんにとっても――悪夢としか思えない会話が聞こえてきた。

「そりゃ、嫌いじゃありませんけどね」
「なら、問題ないだろう? いまの世の中、二十歳にもならぬうちに結婚するヤツなんてあちこちにいるだろう」

 結婚! その言葉が先輩さんの口から出た瞬間、私はなぜか身を強張らせてしまった。

「……まあ」

 『……まあ』じゃないよ! ケイ!

「でも先輩、いくらなんでも初デートでプロポーズなんて、普通ありませんよ」

 ぷろぽーず!?

「いや、そうとも言えないぞ。割と芸能人なんかは当たり前にしている」
「芸能人を引き合いに出されても……」
「で、だ。実際お前はどう思っている? まさか一生独り身でいるつもりではあるまい?」
「いや、なんとも……」
「大体、結婚すれば新居が必要になるだろう。まさかずっとあのワンルームのアパートに住むわけにもいかんだろうし」
「それはまあ、確かに……って、この話をするために今日誘ったんでしょう、先輩」
「当然。新婚生活といえば新居、新居といえば家具だろう?」
「だからって……。まったく、強引なんですから……。まあ、昔からのことですけど」

 ご……強引って……。
 なに、このラブラブカップル――というか、新婚夫婦みたいな会話は……。
 一体、私の知らないところで二人になにが……?
 いや、この二人、もとからこういう仲だったのかも……。周りには隠していただけで……。
 ……うわーん! ケイのアホー!!
 ケイなんか、先輩さんのボディーブロー食らって地球一回転して、大気摩擦で燃え尽きちゃえー!!
 私は心の中でそう叫ぶと、いまの出来事を鈴音さんに報告すべく空を駆けたのだった。


○神無鈴音サイド

 正直、目の前が真っ暗になった。まさかここまで決定的なやり取りまであったとは……。
 ああ、どうしよう。どうしようったらどうしよう。私は一体どうしたら……。
 いや、本当は分かってる。こうなった以上、私は二人にとってただのお邪魔虫だってことくらい。
 でも。心はそんな理屈じゃ納得してくれない。
 ああ、本当にどうしよう……。
 とりあえず私は冷静さを保つため、口を開く。

「で、でもほら、真儀瑠先輩と蛍は帰宅部の部長と副部長だし、二人で会っていても別におかしくは……」

 ああ、私はなにを言っているのだろう。その二人で会っていて、しかも話していた内容が問題なのだというのに。
 けれど、よく考えてみれば、だ。
 これと似たような状況は前にもあった。
 そう。蛍の幼馴染(?)、篠倉綾さんと蛍との仲を誤解してしまったときだ。だから今回も誤解である可能性は残っているはず。いや、残っていると信じたい。
 それに、だ。実のところ、蛍はもちろん、真儀瑠先輩も恋愛関係には疎かったりする。果たしてその二人がウインドウショッピングをしながら愛の語らいなどするだろうか? まして、二人の仲を学校で隠しておけるものだろうか? 私とユウさんも含めて、学校中の誰もを騙し通せるだろうか?
 もちろん否とは言い切れない。でも、それができる可能性は限りなく低いはずだ。
 私はそう思考をまとめ、可能な限り心を落ち着けた。
 そう。私がもっとも避けたい事態はなにか。蛍と真儀瑠先輩が付き合っている事実を自分の耳に入れること?
 違う。私がもっとも避けたいのは、これをきっかけに、また綾さんのときみたいに蛍とケンカしてしまうことだ。
 だから、私がいまとるべき行動は――ズバリ、静観。
 私はそう結論を出し、虚空に浮かんでいるユウさんに声をかけた。ちなみに彼女、これまた形態変化の応用なのか、ハンカチを出現させて「きいぃぃぃっ!」などと言いながらそれを噛んでいる。相変わらず変なところで芸が細かい。

「ユウさん」
「なに!? 鈴音さん!!」

 ユウさん、なんだかすごい勢いだ。このままだと本当に蛍を惨殺するかもしれない。

「前にアヤさんの一件もあったことだし、蛍にはなにも訊かないようにしよう」
「えぇ〜っ!? なんで!? 鈴音さん、腹立たないの!? モヤモヤしないの!?」
「立つし、するけど、とにかくここはグッとこらえよう。じゃないとまた蛍とケンカになっちゃうよ」
「うっ……分かったよぉ……」

 『ケンカ』の一言でグンとテンションダウンするユウさん。
 よかった。ここは私も譲れないところだったから。
 そして、私は心の中でひとつの決意をした。
 明日、朝一番に真儀瑠先輩のクラスに行って話を訊こう、と。
 ……いや、静観するのが一番と分かってはいるんだけど、この感情ばかりはどうしようもなく……。
 これくらいなら……許されるよ、ね……?
 ああ、どうか間違いで――誤解でありますように。



――――作者のコメント(自己弁護?)

 どうも。冷やし中華始めました、ならぬ、新シリーズ始めましたのルーラーです。
 今回の連作はメインの四人のみでストーリーを作るということ。そして、『僕もちゃんと物語を完結させることは出来るんですよ。もうひとつの短編連作はダラダラと続けているわけではないんですよ』というのを示すため、全三話で完結させる、ということを目標としています。
 あ、あともうひとつ。ラブコメの中にミステリの骨組みを仕込んでみたい、というのもあります。
 ところが、やってみたいというのと実際に執筆するのとは大違い。実際、この作品にミステリの風味なんて微塵も感じられません。
 そんなわけでこの連作、皆さんは単純なラブコメとしてお楽しみください。
 さて、今回のサブタイトルの出典ですが、今回は『小説スパイラル〜推理の絆〜3 エリアス・ザウエルの人食いピアノ』(スクウェア・エニックス刊)の第一章からです。意味は鈴音の聞いた(聞かされた?)『鈴音にとっての真実』ではなく、『ユウにとっての真実』です。だから起こった『かもしれない』ことなのです。つまり鈴音はユウの話を(一応)半信半疑で聞いているのですね。ちなみに、第二話は『真儀瑠沙鳥にとっての真実』の話であり、さすがに鈴音も半信半疑ではいられなくなります。
 しかし、この連作のプロットをノートに書き付けているときに思ったのですが、なんだかこの作品、元ネタである『エリアス・ザウエルの人食いピアノ』とマテリアルゴーストのキャラ性をちゃんと読み込んでいる方なら、誰にでも書けるような話のような気がしてなりません。
 さて話は変わって、次の話はなににするか、ですが、現在少々迷っております。本来なら蛍とマルツの活躍する連作を書くべきなのでしょうが(そろそろヤマ場ですし)、しかし、この作品の続きや短編(というかショート・ショート)を先に読みたいという方も、この広い世の中には何人か居てくださるかと思います。というか、居てくださると嬉しいです。
 そこで、『感想掲示板』と『イロイロ掲示板』の『新作投稿』のスレッドを使わせて頂いて、次に読みたいという作品に投票して頂けないかな、などと無謀なことを考えております。
 そんなわけで、
 1.蛍とマルツのシリアスな連作
 2.この作品の続き
 3.神無鈴音の短編(ショート・ショート)
 から第一候補と第二候補を選んで、『感想掲示板』か『イロイロ掲示板』の『新作投稿』のスレッドまで投票頂けると嬉しい限りです。普段は敷居が高いと感じて書き込めない方も、気楽にお願いいたします。
 期限は……そうですね。2006年6月10日の午前7時まで、ということで。
 ああ……、なんだか勝手に企画を立ち上げた形になってますね。こんなことして大丈夫なんでしょうか……。
 ……大丈夫だと信じましょう。
 さあ皆さん、ハイツ『リドル』2号館を皆でもっと盛り上げようじゃありませんか。
 今回は差し出がましいことをしてしまったので、果たしてどうなるかわかりませんが、皆さんにまた次の二次創作小説で会えることを祈りつつ。
 それでは。


公開:2006/06/06

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