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異邦人
著者:ルーラー

「ソーセージが食べたい」

 僕がその建物(スーパーというらしい)に入ってまず聞こえたのは、そんな一言。
 声のしたほうを見ると、フリフリの――そう、黒いドレスのような服を着た少女が隣にいる黒髪の少女に話しかけていた。
 ……うん、話しかけている、と取るべきだよな、あの光景は。だって黒髪の少女はそっぽを向いていて、ちっとも口を開かないし。

「ウインナーソーセージが食べたい」
「いや、ソーセージとウインナーは別物だろ」

 あ、黒髪がツッコミを入れた。いや、違うか。黒髪の表情から察するに、ツッコミを入れてしまった、という感じだ。

「そんなことより私はウインナーソーセージが食べたいんだよぅ。その辺わかってるの? ケイ?」
「だから食べたいのはウインナーなのかソーセージなのか、どっちなんだ」
「さっきから言ってるでしょ。チャーシューが食べたいんだよぅ」

 いや、言ってない。それは言ってなかったぞ。と、思わず心の中でツッコミを入れてしまう僕。
 一方ケイと呼ばれた少女は、

「はいはい」

 あっさりとスルーした。……手慣れている。それもすごく手慣れている。というか、それでいいのか、ケイ。さっきまでの会話がどうも時間の無駄っぽく感じられるのは僕だけなのか?
 しかも、ドレスっぽいものを着ている少女はケイにスルーされたことも気づかずに話し続けている。

「ラーメンにメンマにチャーシュー……それぞれがそれぞれの味を引き立たせて、さらなる高みへと昇らんとするようなあの味……。ああ、三大珍味さえ超えるよね、あの味は」
「食べたことないだろ、三大珍味。そんなのユウの思い込みだって」
「思い込みは大切だよ! 思い込むことこそが心を豊かにするんだよ!」

ムチャクチャなことを言っている。しかもあながち間違いとも言い切れないからタチが悪い。恐るべし、ユウとやら。

「わけのわからないことをいってるんじゃない!」

 ケイのツッコミは普通の人間にならもっともなことのように聞こえたことだろう。しかし、僕の場合は違った。いや、そりゃ僕は普通の人間だ。というか、つい最近まではそうだった。この世界にやってきてしまうまでは。


 自己紹介がまだだった。僕はマルツ・デラード、17歳。カノン・シティにある魔道学会支部の副会長、ブライツ・デラードの一人息子。まあ、ぶっちゃけお坊ちゃまだ。
 カノン・シティについて詳しい説明は不要だろう。フロート公国の北東に位置する、まあ、それなりに栄えた町だ。僕はその町で日々、魔道士として修行に明け暮れていた。まあ、僕自身優秀なほうだったから、修行が苦になったりはしなかった。
 ところが、だ。ある日気づいたら、僕は海を行き来する船で寝かされていた。事情説明を求めたところ、海をプカプカ漂っていたというのだ。つまり僕はその船が通りがかってくれたおかげで一命を取り留めた、ということらしい。
 さて、そこからが大変だった。もはやトラウマとなりつつあるため、あんまり詳しく語りたくはないのだが。いや、この際、かいつまんで語ることとしよう。あの不快な出来事は出来る限り言語化したくない。
 察しのいい人なら既に気づいているかもしれないが、僕はまず助けてくれた人達に自分の住んでいた町――いや、世界のことを語って聞かせた。そのときはまだ、僕の乗っていた船が僕の世界を航行していると思っていたからだ。しかし違った。僕の住んでいた町の名も、フロート公国という国の名も、その人達は知らないようだった。それどころかその人達はだんだんと可哀想な人を見る目で僕を見始めたほどだ。あれは辛かった……。
 まあ、その辺りからなんとなく気づき始めてはいたのだ。僕がいまいる『ここ』は僕の住んでいた世界ではない、と。そう。ただ、信じたくなかっただけで……。
 まあ、それから色々あったあげく(その色々の大半は、僕が精神を病んでしまっているのではないか、という周囲のいらない気遣いだ……)、ある人が『バミューダトライアングル』について語ってくれた。なんでもその『バミューダトライアングル』というのは、海上にある別名『魔の三角海域』と呼ばれている所で、そこでは様々な不思議な出来事が起こっているそうなのだ(僕の世界でいうところの『魔海』みたいな場所か)。その人はそこでどういう不思議なことが起こったのか可能な限り詳しく説明してくれたが、あいにくと僕には憶えきれなかった。いや、違うか。憶えておく必要が無かった、というべきだな。ただひとつの説明を除いては、だけど。
 そのひとつというのが、僕にとって非常に興味をそそられるものだった。それは言うなれば、『異次元空間説』あるいは『空間移動説』というものである。まあ、早い話が、だ。僕はその『バミューダトライアングル』を通って、僕がもといた場所から空間移動してきたのではないか、ということなのだそうだ(なんでも僕は、その『バミューダトライアングル』のほうから流れてきたらしい。そもそもその説明にしたってその人は「あくまで仮説だが」とつけ加えていたし。というか、僕が別の世界の人間だということはとうとうその人も信じてくれなかった)。まあもっとも、僕は自分の住んでいた世界で、『魔海』に飛び込んだ覚えもないのだが。
 で、まあ、その船はちょうど僕が今いる日本という大陸に立ち寄った。そのときに逃げるようにして僕は船を降りたのだ(このままだと金払わなきゃならない可能性もあったし、なによりも周りの僕を見る目があまりに居心地悪かったから)。それが3日前のこと。


 さて、話は戻って現在。僕はこの世界じゃ魔法を使えないことを受け入れ(受け入れざるを得なかったのだ。じたばたしても現実はそうそう変わってくれない)、とりあえず生きていくために食料の調達を試みた。ところがうまくいかないのだ、これが。「魔法が使えれば」と一体何度思ったことだろうか……。そして失敗して逃げ出すときに浴びせられる罵声もたいてい同じ。すなわち、「金払えーっ!」である。無いものは無いのだから仕方ないだろうに。まあ、稀に「警察に突き出してやるーっ!!」とか言われて追いかけ回されたこともあったっけか……。僕は頭脳労働派の魔道士であるからして、シンドイことこのうえなかった。
 そしてこのスーパーの試食コーナーとやらのことを知ったのが昨日のことだ。いや、人間なにも食べずとも3日は生きられるというが、確かに2日なら大丈夫だと身をもって証明してしまった(つまり、食料調達は一度もうまくいかなかったのだ)。できることならそんな証明なんてしたくなかったけどさ……。あ、そうそう。公園とかいう所の水飲み場はなんとも便利だった。あれがなかったら昨日の時点で動くこともできなくなってただろう。命の恩人だ、水飲み場。
 それはそれとして、僕がこれまで孤独感やらなんやらと戦ってこれたのも、「いつかはもとの世界に帰れる」と信じていたからだ。いや、そうじゃない。帰れると、思い込んでいたからだ。さっきユウとかいう少女が言っていたことに近いが、僕はそう思い込むことで、ともすれば折れそうにもなる心を必死で支えてきたのだ。
 しかし、そこは僕もしょせん17歳の少年。思い込みだけで果たしてあとどれくらい心を支えていられるか……。
 僕は暗澹たる心持ちで嘆息すると、試食コーナーに向けて一歩を踏み出した。あの二人の漫才めいた会話を聞いていたときは、なんとなく明るい心持ちでいられたな、なんて思いながら。


 えーと……、なんとコメントしたものか……。
 とりあえず、今日試食コーナーに並んでいたのは、チャーシューだった。それだけならいい。というより、それ自体はすごくいい。育ち盛りな僕の心情は「肉類バンザイ」だ。けれど……。

「わーい、チャーシュー! ラーメンに入ってないけどまあいいかぁ」
「やめろユウ! 周りの人達からはチャーシューがひとりでに浮き上がってるように見えるんだぞ!」

 えーと……、ひとりでに浮き上がって……? そんな風に見えるわけ……って、マズい! このままだとチャーシュー全部あのユウってヤツにくわれる! ストップ! ストォォォップ!! 試食は僕の生命線なんだ!!
 僕はそのユウって娘にタックルをかます勢いで試食コーナーに突っ込んでいった。そして食べる! 食べる! 周りの目なんか気にしてられるか! とにかく口の中にチャーシューを次から次へと放り込む!
 そんなことをしていると、だんだんと視線が和らいで――いや、周りの人達が目を逸らし始めた。そう、周囲の人間というのは常識を逸脱した光景を見ると、最初こそジロジロと見てくるが、だんだんと飽きてくるのか、はたまた目を合わせちゃいけないと――要は変人扱いし始めるのか、次々と視線を逸らし始めるのだ。変人扱いされているとするならそれは決して面白いことではないが、そのおかげで試食品をほとんど独占できるのだから甘んじて受けるとしよう、それくらい。こちとら空腹、メシのほうが人の視線なんかより重要なんだ。
 さて、と。腹の具合も落ち着いたので、辺りをぐるりと見回してみる。睥睨しているとも言えるかもしれないが。ともあれそうすると、なおもこちらを見ている人間、一緒に試食している人間はそそくさとこの場を去っていく――はずなのだ。少なくとも昨日はそうだった。そのはずなのに――

「あなた、もしかして私のこと見えてるの?」

 今の今までチャーシューに夢中になっていた少女――ユウは、睥睨した――もとい、チラリと視線をやった僕にそんなことを訊いてきた。

「――はい……?」

 思わずチャーシューを一切れ取り落としてしまう僕。……って、ああっ! もったいない!!
 しかしそんな僕にはかまわず、黒髪の少女のほうも、

「え!? マジでか!?」

 信じられないって表情でこちらを向いた。むぅ、さっきぐるりと視線を巡らせてやったときに、あさっての方向に視線をやっていたというのに。ユウのことが見えるというのがそんなに驚くようなことだというのだろうか。

「そりゃ見えるよ。当たり前だろ?」
「……当たり前なのか……」
「……当たり前なんだ……」

 息ピッタリに僕の言ったことを復唱する2人。僕があからさまに訝しげな表情をしたからだろう、ケイという少女のほうが少し声をひそめて、

「あのな、実はユウ――コイツのことな――は……」

 ここでまた一段声をひそめる。まるで、これから言うことは重大な秘密なんだぞ、とでもいうように。

「――幽霊なんだ」

 ゆうれい? ゆうれいというと、幽霊? つまり、人に害をなす魔物――『アンデッド』!?
 思考がようやくそこまで到達したところで、僕は素早くバックステップ。ユウから距離をとる。そして使う魔術をとっさに選択、その一瞬後に呪文の詠唱を開始。
 詠唱しながら精神を集中させ、右手を開き(持っていたチャーシュー十数切れが手からこぼれ落ちたが、気にしてる場合じゃない。命とメシなら天秤にかけるまでもなく僕は命を選ぶ)、ユウに向かって突き出す。そして――

「黒妖崩滅波(ブラム・ストラッシュ)!」

 黒い波動が右の掌からユウに向かって一直線に飛びだ――さないなぁ、掌から一瞬黒いなにかが飛び出た感覚はあったんだけど……って、そうだよ! この世界じゃ魔法は使えないんだ! どうするよ、僕! 魔法使えなかったらアンデッド倒すなんて僕には出来やしないぞ! どうする!? 命乞いするか!? 手の甲さすって「申し訳ありやせんユウ様、ほんの悪ふざけでして……」とでも言うか!? 嫌だ、そんなの! プライドが許さない!でも命にはかえられないし――

「うわ……ここまでイタいヤツは初めて見たかもしれないな……」

 ああ、そりゃイタいだろうさ! あんたたちから見りゃ、僕はただのイタいヤツだろうさ! でもこっちは真剣なんだぞ! 真剣に命の危機で――って、待てよ。ユウが人を殺すヤツならケイもそう一緒にはいられないか。なんだかんだで関係は良好そうだったし。とするとなにか? ユウは別に危険な存在じゃないってことか? この世界のアンデッドは――いや、少なくともユウ個人は人間に害をなす存在じゃない?
 一応確かめたほうがいいな、ケイのほうに。ユウに話しかけていきなり襲われちゃかなわないし(いろんな意味で)。

「えっと……ケイさん……だっけ……? そのアン――いや、ユウさんって……害ない?」
「害? いや、多少迷惑なとこあるけど、害ってほどのことは――あるか……?」

 ふむ、どうやら命に関わるような害はないらしい。とりあえず一安心だ。

「……っていうか、そんな格好であまり話しかけないでくれないか? なんていうか……周りの視線が痛い――ってことはないけど、なんか自分までイタい人間に思えてくる」

 そりゃ周りの視線が痛いわけないだろうな。ついさっき僕が周囲を睥睨してやってからというもの、誰一人こっちには顔を向けようとしてないし。いや、それよりも、だ。そんな格好? 僕のどこが変な格好だというのだろう。一般的な魔道士なら誰もが着ている、フード付きの黒いローブ。僕の着ている物なんて、これと黒いブーツくらいのものだ。もしかして、髪型が問題なのだろうか。幼い頃はよく、「後ろから見たらまんま栗頭。しかも緑の」なんて言われたものだ。あるいは、この黒目がちの瞳? それならケイもユウもさして変わらないじゃないか。

「とにかくそのコスプレみたいな格好はどうかと――」
「そんなことよりっ!」

 ケイのセリフをさえぎって、ユウが少し身を乗り出してくる。

「あなた、私のこと見えるんでしょ!?」

 ついさっきも訊かれたことだ。してみるとアンデッド――もとい、幽霊とやらはこの世界では人に見えない存在らしい。一部の例外を除いて、だが。
 いや、そんなことよりも、だ。どうやら僕が彼女を攻撃魔術で一撃しようとしたことには、誰も気づかなかったらしい。そのことにまず、心から安堵。

「はい、見えますよ?」

 とりあえず丁寧語。彼女の能力(ちから)を見極めるまではこれで通そう。

「けど、なんで見えるんだ? 鈴音と同じ霊能力者か?」

 少し考え込むようにケイ。微妙に僕から視線を逸らしているが、とりあえず気にしないことにする。
 僕は別の世界からやって来た事実を二人に語ることにした。そうしないと、いつまでもグダグダと意味のない会話が続きそうな気がしたから。



「……つまり、お前の住んでいた世界ではそのアンデッドって存在は誰にでも見える。だからその世界の住人であるお前は、この世界ではアンデッドと同格であると思われる幽霊も見える、と……そういうわけか?」
「まあ、要約するとそういうこと。もっともこの世界で言うところの幽霊は、その誰もが悪しき存在ってわけじゃないようだけど」

 ところ変わってここは駅のホーム。
 僕の説明を要約してくれたケイは、その僕の補足を聞くと、ひとつ盛大にため息をついた。

「なんてこった……ユウがアニメキャラになるまえに、本当のアニメキャラに出会ってしまった……」

 ……なんか、失礼なことを言われた気が……。

「で、さっきの『なんとかストラッシュ』ってのが魔法……?」
「いや、<黒妖崩滅波(ブラム・ストラッシュ)>……」
「正式な名前はどうでもいいんだ。お前、アレやったとき、ものすごく恥ずかしくなかったか……?」
「いや、ちっとも。」
「そこは恥ずかしいと思うべきところだろうに……」

 また失礼なことを言われた気がするな……。いや、それよりも、だ。
 冷静になって考えてみると、さっきスーパーで魔術を使ったときは少しだけど手ごたえがあったな。4日ほど前に使ったときはウンでもスンでもなかったのに。
 ふむ、なんとなくわかってきたぞ。おそらくこの世界でも魔法は使えるんだ。ただ、この世界の住人は、自分たちが魔法という技術を使えるのに気づいていないだけで。いや、原因はもうひとつあるか。これまた『おそらくは』だけど――通常、大気には魔力が満ちている。しかし、この世界の大気に含まれている魔力はあまりにも濃度が薄いんだろう。だから、魔術を発動させる際の助けがとてもじゃないけど足りない。これだとよほどの――僕の世界でいうところの『超一流』レベルの魔力と才能がないと、魔術をまともに発動させるなんて不可能なんじゃないだろうか……。
 そしてその魔力と才能を顕在化させることが出来た人間のことを、この世界では『霊能力者』と呼んでいるのではなかろうか。さっき話題に出た『鈴音』って人みたいに。
 幸い、人間の魔力っていうのは、魔法を使えば使うほど上昇していく。筋トレすれば力がつくのと同じことだ。つまり、しょっちゅう魔法を使っていれば、この世界でもまともに魔法を使えるようにはなれるはずだ。元の世界に帰る方法はそれから考えればいい。なにしろ、今の段階では空すら自由に飛べないのだから。それに、この世界にいる魔道士――いや、この世界では『霊能力者』と呼ばれてるんだっけか――の『鈴音』という人に会って、この世界の魔法に関する考察を聞かせてもらうのもいいだろう。というか、今出来ることなんてそれくらいしか思いつかない。
 さて、となると当然ケイに頼んでその『鈴音』って人に紹介してもらうくらいしか、その人と会う方法はないわけだが。紹介してくれるかなぁ……こちとら、見ず知らずの他人だというのに……。
 ちなみに、僕が自分の思考に没頭している間、ユウは自分のことが見える人間が増えたことがそんなに嬉しかったのか、やたらとはしゃいでたりするし(具体的にはホームの天井の辺りを飛び回っている。まあ、アンデッド――じゃない、幽霊は人間を遥かに超える魔力を持っているんだから、無意識にでもそれくらいのことは出来るか)、ケイのほうは――

「はぁ……死にてぇ」
「えぇっ!?」

 いや、それは僕のような心境の人間が言うことだろ! 大体、軽々しく言っちゃダメだろ! 僕だって言わないようにしてるのに!

「なんだって自称とはいえ、『自分は魔法使い』みたいなこと言ってる、それも異世界からやって来たヤツと関わらなきゃならないんだ……」
「いや、自称でも魔法使いでもないって! 魔道士だって! ……って、信じてくれるんだ。僕が別の世界から来たって……」

 ちょっと――いや、かなり意外だった。今まで誰一人信じてくれなかったものだから。

「まあ、僕にも色々とあったからな。ここしばらくで」
「そ……そうなんだ……」

 ……なんだろう、このやたらと達観した表情は……。命のやりとりもしてない(この世界の)一般人ができる表情じゃないぞ……。

「それに、超常的な存在や現象は見慣れてるし……」

 言うとケイは嘆息しつつ空を眺めた。いや、違うか。いまだに空中を飛び回っているユウに視線をやったのか。

「……なるほど」

 思わず納得する僕。
 と、不意にケイは僕のほうに向き直り、

「ありがとな。さっきスーパーでユウから周囲の視線逸らしてくれて」
「え? あ、ああ……」

 あれは別にユウのためってわけじゃなかったんだけどな。まあ、感謝されてるらしいし、結果オーライか。

「アイツも別に悪いヤツじゃないんだ。ちょっと、自分が幽霊だってことを忘れがちなだけで」

 本当にいつも忘れているわけではないだろう。だって――。と、そこでケイが僕の心を読んだかのように続ける。

 「忘れられるわけ、ないんだよな。アイツ、なんだかんだ言って夜はずっと一人、眠らずに――いや、違うか――眠れずにいて、それはきっと、ものすごい孤独感を感じることなんだろうから。そのときは、自分は幽霊なんだって、自覚せざるをえないんだろうから……。だから今も、スーパーにいたときも、昼間はずっとはしゃいでるんだろうな……」

 僕は少しうつむいてポリポリと頬を掻いた。
 うーん……少ししんみりとしちゃったなぁ……。ていうか、あの空中飛び回ってるアクションって、はしゃいでるっていうのか? 僕はてっきり魔力を無駄遣いしているものだとばかり……。
 それによく考えてみれば、だ。ユウは普通の人間には見えないんだよな……? だとすると、いくらはしゃいでいたとはいえ、人前で食べ物パクつくのはかなりマズいんじゃないか? なんせ、普通の人間から見れば試食品がいきなり宙に浮き上がったかと思ったら、次の瞬間には虚空に消え去ったように見えるのだから。うーん……、よく考えてみるとけっこうシュールな光景だ、それ。僕が周囲の視線を集め、さらに散らしたのは――こう、いっそ救世主的な行為だったんじゃないのか? この二人からしてみれば。もしや、これは恩を売るチャンス?
 そんなことを考えながら顔を上げると、スーパーでのことをケイも思い出していたのか、沈みがちな表情でポツリと一言。

「死にてぇ……」
「またか!?」

 いやだから! 軽々しく言っちゃダメだって! そういうこと!
 反射的に叫んで、さらに硬直していると、ケイはさらにすごいことを言って――いや、提案しようとしてきた。

「そういやお前って魔法使いなんだよな? それも異世界から来たっていうから当然、宿な――」
「だから魔法使いじゃなくて魔道士!」
「たいした違いないだろ? 細かいヤツだな」
「細かくない! 魔法使いってのは魔道士はもちろん、僧侶や魔道戦士、果ては巫女まで含めた『魔法を使える人間』のことを言うんだ!」
『巫女?』

 ユウも加わり、ケイと声をハモらせて『巫女』の部分を復唱してきた。なぜそこを繰り返すのかが謎だ。というか、ちゃんと話聞いてたのか。ユウ。

「巫女がなにか?」
「あ、いや。続けてくれ」
「うん、続けて続けて」

 なにか釈然としないものを感じるな。まあ、いいけどさ。

「とにかく。魔道士に『魔法使い』って言うのはとんでもない侮辱にあたるんだよ! 分かった!?」
「ああ、分かった分かった」

 両の手を空に向けブンブンと振りながらケイ。その傍らに降り立っているユウも、

「うん、マルツは魔道士。魔法使いじゃなくて魔道士」

 やっぱりなんかすっきりしない。
 僕が少しムスッとしていると、ケイが先ほど言いかけた提案を繰り返してきた。

「それで、『魔道士』のマルツは今宿なし――あー、つまり、泊まるところがないんじゃないか?」

 『魔道士』の部分をやたら強調してくるケイ。一応言っておくが、僕は宿なしの意味くらい分かる。

「そりゃあ、まあ……」

 じゃあウチに泊めてやる、とでも言ってくれるのだろうか。だとしたらありがたいことこのうえないが(『鈴音』って人にも紹介してもらいやすくなるし)。
 しかし、彼女の次の言葉はこちらの想像を遥かに超えるものだった。

「じゃあ、ウチに泊まっていいよ。ワンルームだから狭いけど。ただそのかわりにさ……」

 僕はこれからさき、この提案を聞いたことを何度も後悔することとなる。

「人をなんの痛みも苦しみもなく殺せる魔法ってよくあるだろ? RPGとかでさ。即死の呪文ってやつ? 魔法を使えるようになることがあったら、そういうの僕にかけてくれないか?」

 …………はい? 今なんと? 要するに自分を殺してくれってことか? なんの痛みも苦しみも感じない魔法で?
 別にそういう魔術がないわけじゃない。いや、即死の呪文なんてものは存在しないが、要は殺されたことにも気づかないぐらいの一瞬で、かけた相手を殺せるほどの殺傷能力がある魔術か、あるいは精神そのものを消滅させる魔術を使えばいいだけだ。少なくとも後者なら肉体的な痛みを感じることは絶対にない。
 つまり、いま僕が呆然と――というより、困惑している理由は――
 ……この人、冗談抜きで死にたがってる……?
 というものだった。
 困惑するな、というほうが酷だろう。『あなたの願いをなんでもひとつだけ叶えてあげましょう。あなたの命と引き換えにね』なんて言ったはいいものの『じゃあ、痛みも苦しみも感じないように殺してください』なんて返された悪魔だったら今の僕の気持ちがよく分かるに違いない。まあ、悪魔が願いを叶えたときに命を奪う際、そこにはなんの痛みも苦しみもないのかというのは、議論の余地があるけれど。
 僕はちょっと現実逃避気味の思考をやめて、ユウのほうに視線を向けるが、

「もう、またケイは……」

 彼女は呆れたように呟くだけである。
 まさかとは思うけど……この二人にとっては、これが日常茶飯事……?

「え〜と……」

 さて、なんと返事したものか……。
 いや、僕に選択肢なんて最初から存在していない。そこまで断言しなくてもいいのかもしれないが、僕にはそうとしか感じられなかった。
 まず、宿なしであるのは間違いのない事実である。この状況はいいかげんなんとかしないと、餓死する日もそう遠くはないだろう(今は夏なので野宿そのものは命に関わるまい)。第二に、彼女の提案を蹴ろうものなら、『鈴音』という人に会うのは困難をきわめることになる。ケイの提案を蹴ってなお『鈴音』という人に会おうとするなら、それ相応の――ハンパではない労力を必要とするだろう。別にそこまでしなくても、と思う人もいるかもしれないが、一刻も早く自分の住んでいた世界に帰りたい僕としては、その『鈴音』という人に会って色々とこの世界の魔法に関して訊きたいのだ。
 だから、僕はこう答えざるを得なかった。

「まあ、別にいいけど……」

 魔法を使えるようになったら空でも飛んで逃げればいい。そんな考えも僕の頭の中にはあった。

「よし、じゃあ決まりだな」
「えっと……」

 しかし僕は思わず言いよどんでしまった。だって……。

「どうした?」
「どうしたの?」
「いや、なんだかんだ言っても異性の家で暮らすのは、抵抗ある、というか……」

 それに今初めて気づいたというようにケイが言う。……女の子がそんな無防備でいいのか……? それともこの世界のモラルはその程度のものなのか?

「まあ、確かにユウのことは――気にはなるだろうけど、幽霊なんだし、そこまで気にすることも……」
「そうそう」
「それは分かるよ。そうじゃなくて僕が言いたいのはつまりキミが――」
「僕……?」

 怪訝そうな表情をするケイ。するとそこにユウが口を挟んできた。

「……え〜と、マルツ、念のため言っておくけど、ケイは男だよ?」
「え……お、男ぉ〜っ!?」

 ユウの言葉に僕は人目も憚らずに(といってもそんなに人いないけど)大声で叫んだのだった。


 その日の式見蛍の日記より抜粋。

 『それで今日、マルツ・デラードというヤツと知り合ったのだが……僕のことを女と勘違いしていたようだ。……はぁ、死にてぇ』



――――作者のコメント(自己弁護?)

 初めまして(?)――いや、こんにちわですかね、この場合。
 どうだったでしょうか? この小説。小説を書くのは約2年ぶり、二次創作は約3年ぶりとなります。楽しんでいただけたら幸いです。正直、他の方の二次創作小説と比べると、大分毛色が違うと思います。それも、決してよくない意味で。文章も稚拙ですし。
 たとえダメだしであっても、感想を頂けたら嬉しいです。
 この作品に出てくるマルツ・デラードという少年は、約2年前に書いた『スペリオル』という僕のオリジナルの作品に出てきたゲストキャラです。あまり活躍しないキャラだったため、今回語り手として登場させてみました。
 そして『魔の三角海域』こと『バミューダトライアングル』に関しては、アウトサイドのネタバレがされる以前に御神永生(セキナ・リフォレスト)がD2世界に来た理由として、僕なりに想像したものです。突拍子もない想像であることは分かっているんですけどね。でも、突拍子もない設定は(度が過ぎなければ)物語を面白くしてくれると僕は思っています。
 それとこの作品、なんと完結していません。いや、初めてプロットを立てずに自分が面白いと思うような展開にしていったらこうなったんですけどね。ラストは決めておいたのにおかしいなぁ……。
 そんなわけで(可能なら)この作品は連作短編の形を採りたいと思っています。
 そうそう、この作品は少し『アウトサイド』や『ミスカル』に似ている印象があるかもしれませんが(空間移動とか魔法とか)、少なくとも僕のなかではまったく関連はありません。もちろん、せきな先生の影響は受けていますが。マルツのいた世界や魔法・アンデッドの設定もやはり『スペリオル』からの引用です。地の文が多く、しかも説明的で退屈だったという方、申し訳ありません。精進します。
 いやぁ、やっぱりプロットを立てずに書くと、大変なうえに時間もかかるものの、比較的気楽な展開になっていいですね。プロットを立てた長編となると、僕の場合どうしても重くなってしまって……。これはおそらく、僕が伏線を機械的に回収してしまうからなのでしょうが。
 さて、もし続きを書けるとしたら、次はおそらくマテリアルゴースト2(2006年5月19日現在ではまだ読んでません)を参考にバイト話を書きたいと考えています。その際には神無鈴音嬢にもご登場願って、蛍の『死にたがり』についてもマルツの(僕の?)見解を少々語らせてもらおうかな、と思っています。ええ、蛍なのです。僕の場合、どうもメインで考えるのはユウではなく蛍なのです。ユウファンの方すみません。
 それでは、こんなところまで長文ですみません。ルーラーでした。


公開:2006/05/19

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